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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
一章 幼生期
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14 自警団

 目が覚めるといつもの杭に繋がれていた。

 ……まさか、夢だったのだろうか? だとしたらいつから。


 ――いや、夢ではない!

 この(かぐわ)しい香り、おそらく熊鍋の名残であろう。匂いに誘われて村の広場であるじいさん宅の前まで来ると、強烈な残り香に食欲をそそられる。

 腹の虫は鳴かないが涎は溢れんばかりの大洪水だ。

 鍋底の残りカスでも良い、取り置きは無かろうかと、じいさんに事情を伺うべく扉をノックする。

「おお、お前さん、ようやく起きたかね。フルに礼は言ったか?」

「礼? お祝いじゃなくてか?」

「怪我をしたお前さんを回復魔法で治してくれたのはフルじゃ。驚いたぞ、覚えたばかりなのに見事な治癒じゃった」

 そうだったのか。フルが……。

 すぐにいじける阿呆な俺とは大違いだ。

 あとで感謝の印にぺろぺろしておこう。いや、けっしてイヤラシイ意味ではなく。ペットとして。純粋にありがとうの意味で。

「俺はいい飼い主に拾われて良かったよ。

 ところで、あの熊みたいなの、どうなった?」

「食った。美味かったぞ」

「ん~、でしょうなぁ。それで、俺の分は?」

 沈黙。そして逸らされる目線。

 ねえ、俺の分は?


 コート は まわりこんだ。

 しかし じいさん は しせん を あわせない。


「ちょっと、俺の――」

「お手柄じゃったぞチビ。しかし、今、村は大変な騒ぎになっておる!」

 おお、露骨に誤魔化した!

 こ、このじじい、俺が肉に飢えていることを知っていて、それでもなお全部食っちまったのか! 鬼だ! 鬼畜だ!

 更にじいさんは俺に抗議させる間も与えず、矢継ぎ早に続ける。

「あれは普通の動物ではない、魔物(モンスター)じゃ。名前は一角熊(ホーンベアー)という。

 今まで村の付近であんな大物が出たことはなかった。嫌な予感がするわい」

 まあねえ。俺に言わせれば、テレビゲームのRPGをやってたら、最初の村の初戦闘で中盤のボスと出くわした感覚だ。ボスからは逃げられない。普通なら負けイベント確定だろう。勝ったけど。

「一匹だけなら良いが、他の魔物も沸いて出た可能性はある。安全が確認できるまでおちおち村の外にも出歩けん。

 そこで、腕の立つものを集めて自警団を作り、森の中と村の周辺を見回ることになった。お前さんも参加するんじゃぞ」

「え、強制――? ならせめて俺の分の肉――」

「ちなみにフルも参加じゃ」

 ええっ!

 か弱い女の子を危険な場所に連れ出すとは何を考えとるんだクソじじい。

「気でも触れたか。危ないだろうが!」

「わしゃ正気じゃ。

 わしだって反対した。が、フルが自分で決めたんじゃ。

 もしもの時もあるでな、回復要員が居てくれるのは、正直、助かる。あくまで後方支援じゃし、フル自身が危険に晒される可能性は低い」

「だからって、万が一があるでしょうよ。そういう若者の無茶無謀を諫めるのが年長者の務めだろ。仕事しろじじい」

「耳が痛いのう」

 このじいさんは駄目だ。頼りにならないよ。


 すぐさま踵を返して家へと戻り、戸を叩いてフルを呼び出す。しかし出て来たのは親父さんだった。

「コート。元気になったようで良かったよ。

 病み上がりで悪いんだけど、お前からもフルを説得してくれ。危ない森に調査に向かうって聞かないんだ」

 まさにそのことで駆けつけたのだ。家族が反対しているのなら話は早い、と思ったのだが、家の中へ入るとお母様がフルの肩に手を当てこちらを睨んでいた。いや、親父さんを、か。


 あれ、ひょっとして、お母様は賛成派ですか?


 危ないよー。やめとこうよー。そういうのは大人の男達に任せておけば良いんだよー。

 優しく語りかけるようにくぅん、くぅんと鳴いて近寄り擦りつく。

「心配してくれてるの? ありがとう。

 でもわたし、やりたいの。コートが怪我だらけで帰ってきた時、それをわたしの魔法で治すことが出来た時、そう思ったの。出来ることを、後悔しないように、きちんとやっておきたいのよ」

 口調からフルの意志の強さが伺える。お母様も真剣な顔で頷き、肯定。

 なるほどなぁ。これは説得するのに骨が折れそうだ。だからじいさんも諦めて、しまいにゃ逆に折れちまったのか。


 フルと向き合い、その目をじっと見る。フルもこちらをじっと見て、お互い見つめ合う形となる。

「コート。わたしが自警団に入ること、応援してくれる?」

「グァ」

「そう。ありがとう」

 いや、賛成はしてないけどね。しかし仕方のないことというものはある。反対してもどうにもなるまい。

 ならば、俺が守ろう。せめて前衛で盾役(タンク)を務めよう。この鋼の鱗でこの子を守るのだ。

「おいおいおい、お前まで! フルが危険な目に遭うかもしれないんだぞ!」

「あなた、もう諦めなさいよ。フルは自分のやるべきことが分かってるのよ」

「そんな……」

 親父さんは大きく溜息を吐き出す。と、何かを決心したのか、胸を叩いて声を上げた。

「よし! だったら父さんが前衛に立って、怖い魔物を蹴散らしてやる! フルには指一本触れさせないぞ!」

「あなたは鈍くさいんだから、無理しないで村の見回りするくらいにしときなさいよ」

 ばっさり。お母様、容赦ないですね。


 一刀両断にされた親父さんは涙目で立ち尽くしていた。

 強く……生きろ!

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