1 生まれっちまった悲しみに
我が輩はドラゴンである。名前はまだない。
だって親がいないんだもの。
なんかもう、一気にいろんなことに驚きすぎてどうしていいのか分からん。
よーし、落ち着け。状況を整理しようじゃないか。
生きてた、と思ったらやっぱり死んでた。そして生まれ変わったらしい。つい先ほどまで俺を閉じ込めていた何かは、たまごの殻だったのだ。
卵生である。つまり哺乳類ではない。ということは「人間ではない」ということで、かいつまんで言うとドラゴンです初めましてこんにちは。
ここは多分活火山の洞窟内部。だってマグマがぼこぼこ沸いてるから。火山口にあるちょいと大きめな出っ張りに土だの木の枝だの枯れ草だので作られた巣、その上に鎮座する割れたたまごの殻、イン・ザ・俺。
じっと手を見る。赤い鱗に覆われた肌、伸びたかぎ爪。足も似たようなもんで、背中からは小さな羽が生え、尻には尻尾がついている。そのごつい手で顔に触れると、やはりごつい鱗の感触。あと口が前に伸び出ている。こういうの、マズルっていうんだっけ。鼻だけ柔らかくて湿っている。
開いた口が塞がらねぇ。なんじゃそりゃ。
どうやら俺はドラゴンに転生してしまったらしい。いや本当。これ本当。
でもさぁ、寂しいものだね、ドラゴンの誕生って。だって、は虫類だもの。たまご暖めたりしないもの。
放置。完全なる育児放棄。
知ってるかい? トカゲって子育てしないんだぜ。種類にもよるのかもしれないけど。でも、ドラゴンも子育てしないんだね。一つ勉強になった。そして、生まれれば祝福される人間時代がどんなに幸せだったかを思い知った。こんなにマグマが近いのに、心が寒い。
すさんだ心で、やさぐれて、とりあえず今日はふて寝する。やけくそだっていいじゃない、ドラゴンだもの。おやすみなさい。