12 魔法への目覚め
ここしばらく続いていた朝の読み聞かせ・イン・じいさん宅なのだが、遂に一冊分読み終えてしまった。
未だ魔法は使えない。
しかし、魔力感知については上達したと自負している。
「神の奇跡をここに。神の子たる我ら迷い子の傷を癒し給え。【ヒール】」
じいさんが呪文を唱えると、身体から薄ぼんやりと立ち上っていた何かが手の平に集まり、淡い光を放ち始める。
これが魔力だ。
「見えたかね?」
「見えた」
「では、次は自分でやってみなさい」
「オッス」
指先を爪で傷付け、手の平をかざして呪文を唱える。
「神の奇跡をここに。神の子たる我ら迷い子の傷を癒し給え。【ヒール】」
しかし魔法は発動しない。どころか、自身の内にも周囲にも魔力の流れを感じない。
「ふぅむ……また駄目か」
「え~、なんでよ。おっかしいなぁ」
自分では感知できない。しかし、じいさんから見れば魔力はちゃんと動いているというのだ。自分では知覚できていないだけで。
そして『知覚できない』ということが致命的であるらしい。
試してご覧なさい。両手に鉛筆を持ち、腕を左右に開く。それから目を閉じて、胸の前で鉛筆の先っぽ同士をくっつけるように動かす。うまくくっつけることが出来ただろうか?
目で見て行えばなんということもないのに、見えない状態では途端に難しくなる。
つまり、そういうことだ。知覚できないということは、コントロールできないということだ。
今までは自己流でひたすら反復練習していただけだったが、じいさんと二人の時は遠慮なく会話できるようになった今、マンツーマンでの指導であっという間に上達――とはいかず。
おかげさまで呪文だけなら中回復の魔法や解毒、清浄、疲労回復など様々なものを覚えることが出来たが、唱えるだけで使えるのならば苦労はなかった。じいさんが言うには、熟練の魔導士や神官は無詠唱での魔法発動が可能である、とのこと。ならば、呪文自体は有っても無くても良いのだ。理屈で言えばそういうことだろう。
やはり肝心なのは魔力の制御だ。指南書の中身もそういった技術面に力を入れていた。
魔力の流れが分からなくとも魔法は使えるのだ。ただ、圧倒的に難易度が増すだけで。
「何故だ! 何故使えない!」
「ほっほっ、そうやって焦れているようでは、しばらくは無理かの。
しかしお前さんもよくよく変わり者よな。普通の魔法使いは自分の魔力は感知できても、他人のものを感知する方が難しい。余程天の邪鬼なんじゃろうな」
そんな馬鹿な。俺ほど素直なドラゴン見たことねえよ。辞書を引いたら「素直」の説明に俺の名前が書いてあるぜ。
そんなこんなでなんの成果もなく、一旦家へと帰る時間になってしまった。
最近のライフワークは早朝からじいさんと二人で修行、朝食を食べに帰り、フルと一緒にじいさん宅で読み聞かせ、フルの昼食のために帰り午後からは自由行動となっている。
本は読み終わったので、今日からはフルも交えて回復魔法の練習が出来る。
長期戦になるであろうことは覚悟できていた。
千里の道も一歩から。後のわくわく魔法生活を送るために、ここが頑張りどころなのだ。
やってやる、やってやるぞ!
しかし、結果が出るのはそれからすぐのことであった。
◆
それはフルと一緒に再びじいさん宅へ出向き、回復魔法の練習を再開してすぐのことであった。
「神の奇跡をここに」
魔力の発動。身体を包み込む波動を、今、ハッキリと感じ取れた。
「神の子たる我ら迷い子の傷を癒し給え」
そして集中していく様子も。
「【ヒール】」
遂に仄かな光を放ち、生まれて初めて、魔法というものが発動したのだ!
「すごい……すごいよ、コート!」
フルが喜びと興奮の混ざった表情で俺を見ていた。
「わたし、魔法が使えたんだ!」
はっ!
ショックで意識飛んでた!
えー、どーゆーことー!
余りのことに呆然としていた。
飛び跳ねて喜ぶフルとは対照的に、俺は倒れそうなほどの衝撃を受けていた。
「こりゃ、喜んでやらんか。器の小さい奴じゃのう」
小声で諭すじじいの声もどこか遠くに聞こえる。
えー。だって……えー。
フルはそんなに熱心にやっていた訳じゃないのに。俺の付き添いで何となく一緒に練習してただけなのに。今回も併せて数回程度しか試していないのに。
えー……。
「しかし、驚いたのう。ひょっとしたらフルには神聖魔法の才能があるのかもしれんぞ」
「本当。やー、参ったなぁ。わたし才能有るってよ~。ねー、コートはどう思……コート?」
◆
後にじいさんから聞いた話では、俺は死んだような目をして横になり、腐っていたのだという。全く記憶にないのだが、尻尾を何度も床に打ち付けて、見るからにふて腐れていた、と。
や、だって、ねえ? 覚えてないけど、そういう気分になるのもねえ? やむなしって言うか……。
あー、そうですね! ちっちゃいですね! 小物ですよ!
ごめんね!
自己嫌悪と共に、お祝いはちゃんとしよう、と心の中で反省しておいた。




