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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
一章 幼生期
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9 家出

『家出します』


 時は早朝、日も昇りきらぬ時刻。

 地面に爪で文字を書き、我が家を仰ぎ見る。

 さようならフル、さようなら親父さん、さようならお母様。俺はもうドングリ生活には堪えられません。実家に帰らせていただきます。

 いや、勢いで言っちゃったけど実家には帰らない。あそこ岩と溶岩しかないし。溶岩が溶けた岩だからほぼ岩しかない。

 どこか遠くへ行って、お金を稼いで、それで、肉、食べるんだ。


 俺、肉、食べるんだ……。


 情緒たっぷりに決意を固めたところで、いざゆかん。

 行く当てはない。火山と森とこの村以外知らないから。当て所ない旅は俺を成長させるだろう。願わくば、金持ちの別荘で飼われてダラダラ暮らしたい。

 でも、ここでの生活……嫌いじゃなかったぜっ!


 しかーし! その前にやらねばならぬ。

 この俺をドングリ地獄へと突き落としたあの死に損ないに! 目にもの見せて! 一言物申ーす!


「頼もーう!」(小声)

 復讐するは我にあり。じいさん宅へ乗り込むがしかし近所迷惑を気にして小声で訪ねる俺ドラゴンですおはようございます。

「誰じゃこんな朝っぱらから……。

 うん? チビ……だけか?」

 寝ぼけ眼で辺りを見回すじいさん。そうだよ、俺だよ、コートだよ!

「おうおうおう、じいさんよう、あんた……ドラゴンの主食がドングリだなんてデマをよっくも流してくれちゃったなぁ。俺裁判で有罪は免れんぜ! ギルティ!」

「実際ドングリ食べとったじゃろうが。ふわぁ~あ、ここじゃなんじゃし、ほれ、入れ」

 促されるまま家の中へとお邪魔したが、なんかおかしいな。このじいさん、俺が普通に人語を話しても全く驚いてない。平然と自宅に招き入れ、紅茶を出してもてなしてきた。

「飲まんのか? 遠慮はいらんぞ」

「飲む、けど。……あれ? いや、もうちょっとこう……あの、俺、人の言葉話してるんですけど……」

「ドラゴンはそういうもんじゃ」

 ――あ、そっスか。

「く、詳しいのか、ドラゴン……?」

「詳しくはないが、少しくらいは知っとるのう。昔色々とあったから……まぁ、年の功じゃわ」

 俺は詳しくないけどな、ドラゴンのこと。

 ま、まあ、自分のことは客観的に見られないから、知らないのもしょうがないよね。他のドラゴンも見たことないしね。

「え、じゃあ、なにか。他のドラゴンは……主食なの? ドングリ……」

 うわー、イメージ変わるわー。肉食系の顔してバリバリ草食じゃないですかー。オラオラ系のヤンキーかと思いきや親孝行のまじめな青年だった、みたいな。生き方超ロックだけどアルコール飲めません、みたいな。

「それはお前さんの方がよく知っとるじゃろう。ドラゴンは基本的に飲み食いはせん」

 ……そういえばそうだね。しないね。

「じゃあなんでドングリ食わせた!」

「食べる必要はないが雑食じゃろ。何を食べさせたらよいか聞かれたので『ドングリでも食わせとけ』と言うたまでのことよ。

 お前さん、そんなにドングリが嫌だったら食べなきゃよかったろう」


 じいさんの反撃。俺はぐうの音も出ない。


 正論! 完膚無きまでに正論! 有無を言わせぬ完全論破!

 フルの家で飼われ始めてから今日まで堪え忍んだドングリ生活……その全てが、無駄だった……。『嫌なら食うな』、全く持ってその通りっ!

 だがっ! それでもこれだけは! これだけは言わせて欲しいっ!

「肉が……食べたかっ……た……」

「泣く程か……お前さん、変わっとるのぅ……」

 呆れ顔のじいさん。貴様には分かるまい。普通の食生活を送ってきた貴様には。

「農村で肉は贅沢じゃ。飼ってるペットに分け与えるものではないぞ。

 どうしても食べたいなら自分で捕まえるんじゃな」

「生は食えたもんじゃなかった。臭いし、毛が口の中に張り付いてイガイガするし。

 でも料理してもらおうと思って家に持ってったら、家族だけで食べられてしまった」

「まあ、普段からドングリ食っとったらそうなるかもなぁ。

 しかしお前さん、びっくりするくらい面白いのう。ここまで愉快なドラゴン知らんぞ」

 俺はピクリとも笑えないけどな!


「で、結局何しに来たんじゃ? 魔法の勉強にしては時間が早いが」

「毎食ドングリの恨みを晴らそうと思ってお礼参りに来ました……」

 正直に言ったところで、じいさんは年に似合わぬ大きな声で笑い始めた。

「――っは、っは。そ、それで、どうするね。この老体に牙でも突き立てるかね?」

「も、いいっス。帰ります」

 負け犬改め負けドラゴンは意気消沈して我が家へと帰るのであった。


 ◆


 まだ日も昇りかけた朝である。


 帰って――寝直そう。


 やけに眩しい朝日を仰(あお)ぎ見て、ぼんやりと歩いた。

 家の前まで来ると、庭先にはフルが居て、地面を見ていた。それからこちらに気付くと、納得した顔で頷いている。

「おはよう。あなた、文字が書けるのね。すごいじゃない。

 でも――うふふ、ちょっと間違っちゃったわね」

 そう言うと、棒きれで俺の書いた文字を消し、隣に書き直した。


『外出します』、と。

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