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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
一章 幼生期
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5 狩りの時間だ

 今日も今日とてドングリで腹を満たす俺ドラゴン。

 しかも一日二食。合わせてもドングリ三十個くらい。食べ盛りの赤ちゃんドラゴンをなんだと思っているのだろう。別段不具合はないのだが、不満は募る。

 だいたいこの村、農作物を色々と育てているのだ。農村なのだ。だったら少しくらい俺の食事に回してくれても良いんじゃなかろうか? わざわざ森に出向いてドングリ拾ってくる方がよっぽど手間だと思うのだが。

 ドングリ以外にも、食べ物はあるのだ。むしろ最初にドングリ食わせようっていうその発想に脱帽だよ。きっとこちらが何を食べるか分かってないのだろうが、それならそれで色々試してくれたっていいじゃないか。


 具体的に言うと肉食いてぇ。


 身体が栄養を求めている訳ではない。ただただ、好みの問題で。肉が食いたい。渋みの強いドングリにはサヨナラして、ジューシーで油ギッシュな肉を! 厚みがあって食いでのある肉を!

 贅沢を言っているのは承知の上だ。そもそもこの村、畜産業はやってないし。それでも時々狩りに出かけてウサギ肉だの鹿肉だの持って帰ってくるのを見る度、おこぼれを期待しては裏切られる、そんな屈辱的食生活にもう耐えられない!


 俺は肉を食べるぞー!

 目覚めろドラゴンの本能! 狩りの時間だ! 森の生き物たちよ、貴様らの命で俺の食生活に彩りを添えるが良い! ふははははははは!


 そうと決まれば首輪を外し、火山の麓に広がる森へと一直線。

 辛抱堪らず涎を垂れ流し、血走った目で獲物を探す。唸り声を上げれば逃げ惑う小動物達の足音がする! 滑稽なことよ。逃げられるとでも思ったのか! 貴様らは! すべからず! この俺の胃袋へと消えるのだーっ!


 はーっはっはっはっはーっ!


 ◆


 ……逃げられた。


 そりゃそうだ。ライオンだって狩りの時には爪を隠して忍び足するわ。気付かれた時点で狩り終了のお知らせである。殺気丸出しで獲物を探す馬鹿がどこにいるか。ここにいました。はい、馬鹿です。生まれてすいません。


 いや、むしろラッキー。腹が減らないと気付いた時のことを思い出すんだ。食事の用意がいらないという幸福。煩わしさからの解放。三大欲求の一つを放棄できるというこの上ない贅沢。その時の気持ちを思い出すために、敢えて、森の動物達を追い払ったのだ。

 そう、俺は勝ち組。食うに困らぬ生涯を手に入れたラッキーマン!


 ……じゃない! 食に困ってるから狩りに来たんだ! 肉食べたいよ肉肉肉ぅ~! やっぱ駄目だよ、自分を誤魔化せなかったよ、三大欲求には勝てなかったよ!


 どこかに獲物は残っていないか。匂いを探り、耳を澄ます。感知できる範囲には何もいないようだ。ならば、と姿勢を低くし忍び足で移動する。枯れ葉を踏まないように。草木を揺らさぬように。

 難しい。本能さんは相変わらず仕事をしてくれないので自己流でやるしかない。


 そろり。そろり。抜き足、差し足、忍び足。


 (かす)かに聞こえる草の擦る音。貴様、隠れているな! くくく、大人しく穴蔵の奥で震えていればよいものを、危険が去ったことを確認せずにはいられなかったか。

 ――いた。野ウサギだ。木の根に掘られた小さな穴から鼻を覗かせヒクつかせている。


 そろり。そろり。


 む、気付かれたか? 穴蔵に引っ込んでしまった。おいおい、そいつは悪手だぜ。逃げ場のない袋のネズミ、いやさ、穴蔵のウサギよ!

 爪を突き立て穴を掘り広げる。マンガで見たウサギの巣穴はそれほど深くはなかった。あと僅かで肉を食べられると思えば苦労も苦労とは感じない。むしろ楽しくて仕方がない。食欲に後押しされてテンションも上がるというものだ。

 ふはははは、しかし、深いな。マンガではウサギ一匹丸まるくらいの大きさだったんだけど、でかい蟻の巣みたいに地中に広がっている。

 ううう、マンガでは……マンガでは……。


 ひたすら掘り続けること数十分。もはや穴はウサギどころか自分がすっぽり入る程大きく広がっていた。既に食欲は脇に置いて意地だけで掘り進めている。


 無駄! ここで止めたら。肉を食べたいという気持ちも。這って歩いたこの時間も。必死で掘り進んだこの労力も。全くの無駄! 不毛な時間! くたびれ儲け!

 だから掘る。ひたすら掘る。掘って、掘って――見つけた!


 感謝も達成感もないが喜びには満たされていた。食べるというその目的だけに集中していた。だから生き物を殺すことに躊躇はなかった。怯えてすくんだその喉元を引っ掴み口の中へと放り込み。


 ――ぅおえぇ~~~~~~~~!


 臭っさ! 獣臭っさ! 泥臭っさ! そして最悪の食感。ウサギの毛が口の中に広がってイガイガする。なんじゃこりゃあ! シェフを呼べ、こんなものが食えるかぁっ!


 全力で掘り出したウサギを一瞬で異物認定して吐き出した。涎まみれで逃げていく獲物を追いかける気力もない。込み上げる嘔吐感に支配され気分は最悪。

 こんな時にも本能さんは仕事しないのか。前世の食生活に支配され、生の獲物を口にすることも出来ない。


 文明人として物申す。やはり、食事は、調理済みのものに限る。


 結局その日もドングリを食べて不貞寝した。

 肉食生活は遠い。

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