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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
一章 幼生期
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4 名前を呼んで

 ある日ふと、聞き分けられる単語があることに気がついた。


 女の子が話しかけてくる。

「****、コート。*******」


 親父さんが話しかけてくる。

「**コート、*******?」


 お母様が話しかけてくる。

「コート*********」


 村の子供達が話しかけてくる。

「コート**********」

「********、コート」

「*****、コート*。************?」


 ――ひょっとしたらこれ、俺の名前なんじゃなかろうか?


 俺に話しかけてくる時に聞き取れる言葉。手招きしながら口にする言葉。頭を撫でながら言う言葉。叱りつける時に出てくる言葉。

 俺の名前。俺は『コート』。


 ◆


 自分の「名前」を理解すると、次は人の「名前」が分かるようになった。

 女の子の名前はフル。

 親父さんの名前はドーレン。

 お母様の名前はフィレット。

 村長っぽいじいさんはバルシェン。

 村の馬鹿ガキ共ヒエロ、シュタンナ、ピルコ、ヌーマ、ウリュー、等々。


 人の「名前」が分かると、今度は物の「名前」が理解できるようになった。

 女の子――フルが指さしながら名前を教えてくれる。

「**********『にんじん』、*********『じゃがいも』、*******『こむぎ』***、******」

 フルが口にする『こちらの言葉』が理解できる。

「**、『どんぐり』*****?」

「がぅぅぃ」

「『ど』『ん』『ぐ』『り』」

「お、ぅ、ぅ、い」

 彼女が口にする言葉を反復するように声を出し、単語を覚えていく。なお、ちゃんと発音できていないのはわざとである。最初に訳の分からない言葉(日本語)で流暢に話しかけたせいで怖がらせてしまったことを反省してのことである。


 動物は人の言葉を話せない。人語を口にしだしたら不気味だし、恐ろしいだろう。

 なので愛犬家が「うちの子、言葉を喋るんですぅ」くらいの微妙な発音でお茶を濁すことにした。この程度なら「うちの子賢い! かわいい!」てな範囲で収まるだろう。前世基準だけどね。


 そも、この異世界での言葉はどういうものなのだろうか。

 ラノベなんかだと異世界全体で一つの言葉だとか、明らかに人間じゃない怪物が人の言葉を話したりだとか、馬だの鳥だのが口を利いたりもする。まあ、以前愚痴ったように翻訳魔法だの、意志を伝える魔導具だので、言葉が通じなくてもなんとかなるさって場合もあるのだが。

 ドラゴンなんかは力の象徴であるが、ものによっては人より遙かに賢くて「人間の言葉ペラペラですたい」みたいな例もある。(ひるがえ)って、俺の場合はどうなのでしょう。この世界のドラゴンの賢さレベルが分からないから、覚えた言葉を素直に使って良いものか判断しかねる。

 そこで、その辺がハッキリするまで「ペットにしては賢い」くらいの水準を貫こうと心に決めたのだ。折角腰を据えた村から不気味がられて追い出されるのも嫌だしね。


 しかし、言葉を覚えるのがこんなに楽しいことだとは。前世の学生時代には英語の授業なんて苦痛でしかなかったというのに。それだけ俺は他者とのコミュニケーションに飢えていたのだろう。

 誰とも言葉が通じず、誰の言葉も分からず、内心不安で堪らなかったのだ。

 こちらから言葉を投げかけることが出来ないので一方通行ではあるが、言葉が通じる環境にあると言うことは非常に安心できる。


 ◆


 最近はフルだけでなく、村の馬鹿ガキ共とも遊び回っている。

 こいつらはフルと違って乱暴で、こちらがドラゴンだとか人様のペットだとか全くお構いなく、無遠慮に攻撃を仕掛けてくる。痛くはないがちょっと鬱陶しい。お前ら、子供だから許すけど大人になったら覚えてろよ。

 とはいえ、ガキ共と一緒に村を駆け回るのは言葉を覚えるのに大変効率的だ。知った言葉をすぐ使おうとするし、言葉の分からない俺に自慢げに語りかけてくる。知らないことがあれば周りの大人に尋ね、家で親が話していたあれやこれやを無遠慮に漏らしてまわる。

 こいつらのおかげで俺の語学習得スピードは早まった。

「おいクソトカゲ! **よ!」

 と太っちょピルコが俺の背にまたがりお馬の稽古。後ろからピルコの取り巻きであるヌーマとウリューが木の枝で尻を叩いてくるので堪ったものではない。

 もちろん効かない。効かないのだが、時折尻尾で守られているはずのデリケートエリアに枝の先っちょが触れるのだ。

 敏感だから! そこ敏感だから!

「***一撃! 決まったー!」

 クソガキ共、尻尾で叩き倒してやろうか!

 しかし万が一にもケガを負わせてしまえば全責任は俺が被ることになる。なぜなら俺はドラゴン畜生だから! 人間様のルールでは権利を剥奪される最底辺の生き物だから! そしてペットの責任は往々にして飼い主にもたらされるのだ。

 つまり俺がこれほど辛抱強く自制しているのはフル達家族のためなのだ分かってんのかこのクソガキ共デリケートエリアを狙ってくるんじゃねぇぶっ飛ばすぞコルァっ!


 言葉を覚えるなら現地で暮らし、ガキ共と遊ぶのが効率がよい。これ、俺の実体験な。でも気をつけろ、あいつらは畜生よりよっぽど本能で生きているから。

 だからケツを狙うなっつー――おぁふっ!

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