*プロローグ*
気付けば薄明かりの中にいた。
密室に押し込められ、手足を曲げて丸く座らされた状態で。
……あれは夢だったのだろうか。
実家の酒屋がコンビニになり、企業の傘下に入れば生活も楽になると信じて二十年。それがまやかしだと気付き、ひたすらに働き続けた生活。昼も夜も、平日も休日もなく、身を粉にして、文字通り命を削って……死んだ。
店の明かりを落とし、「ようやく休める」と思ったその時に感じた、胸の痛み。息もできず、倒れ、脳裏に浮かぶ『過労死』の言葉。
年老いた父母の叫ぶ声を聞きながら、「あー、死んだわ」と妙に冷静な意識が、眠る直前のようにするりと落ちた。
で、今。
どうやら死に損なったらしい。ふー、びっくりした。人生終わったと本気で思った。
寝起きでぼんやりしているが、次に考えるのは「じゃあ今の状況は?」という疑問。自宅のベッドではなし、さりとて病院のようにも思えない。
なんだか怖くなってきた。不安だ。どうしようもない焦りがつのる。「ここからでなければ!」という強い強迫観念に襲われている。
俺は暴れた! まともに動けるスーペースなどないが、それでもがむしゃらにもがいて。圧迫する周囲の壁を爪でひっかき、蹴りつけ、背筋を伸ばして押し広げる。なかなかに堅い、が、確かな手応えを感じる。
そしてついにヒビが入った! さぁ、あと一息だ!
パキパキと小気味のよい音を立てて、楕円形の囲いが砕けた。そして体に空気を浴び、思いっきり息を吸い込んで、第一声をあげる。
「っ――ぁ、ぎゃぁ……ぉぎゃぁぁぁ!」
その日、俺は生まれた。