第99話 「炎絶精」
間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
もうすぐで100話ですね
「これからどうするの?」
氷の茨の中心、俺と魅烙は顔を突き合わせながら必死に打開策を練っていた。
正直、今回かなりひどい状態だ。
何がひどいって、俺のせいでみんなの体調管理ができていなかったのだ、もう何も言うことはないだろう。
「まったく、どうすればいいんだ……」
「今、どのくらいの能力が使えるの?」
魅烙が俺に問いかける。
その目は、どうしても凝視してしまいそうになるほど神秘的な輝きをたたえており、なんとなくだが彼女の言いたいことは分かった。
「魅烙、俺の能力を見たことなかったっけ」
「この学園に来てからは、アレを使って一方的に人を撥ね飛ばしたところだけ」
そういえば、そうだったな。
入学式前、確かにそんなことがあったような気がするが、それも4か月たった今では結構な昔であるような気もした。
「特別強いなんてことはないよ」
「……そう?」
なら、代わりに私が強くならなきゃ。
そう呟いて茨の外、にやにやしながら悠長にこちらの出方を待っている筋肉達磨の集団を睨み付ける魅烙を。
俺は、手を握って首を振った。
「魅烙、これ以上無理するな。……ありのままの、魅烙でいい」
「……でも、どうしろって……」
確かに、現在の絶望的な状況の中どうしていけばいいのか、俺にはよくわからない。
しかし、これ以上仲間たちが傷つけられるのは見たくないのだ。
遠くで地面に伏している澪雫たちのためにも、そして。
今ここにいる、魅烙のためにも。
「大丈夫だって、俺を誰だと思っている?」
彼女を安心させるようにそう俺は告げると、氷の茨を解き放った。
ガラスが割れるような音、ガラスの割れるようなエフェクト。
内側から外側へ爆発するように、轟音で茨が解ける。
氷が目の中に入ってくれれば万々歳だが、残念なことにそうにはならなかったようだ。
俺は息を吐き、そのまま敵に向かって直進する。
同時に【ISC】を使えるように自分に働きかけ、心の中で【起動】と唱えた。
もともと訓練によって得られた能力のため、そんなことはしなくてもいいのだが要は気持ちの持ちようである。
一人に近づくと、敵が俺の動きに捕捉し切る前から足で蹴りを食らわせる。
空を蹴ったと思われた足は、それのみで驚くべきことに竜巻を発生させたではないか。
こんなこと、今までできなかったのに、何の冗談だろう?
「俺の能力が」
開花、し始めているという証明なのか。
それとも、ただのマグレであるのか。
それにしても、相手は不敵な笑みを湛えたままなんだよな。
妙に不気味というか、面倒な敵を持ったようだと考えるが、結論が出る前に俺は行動で示すことにした。
「やっ!」
軽く掛け声。
それから繰り出されるは、豪速の蹴りだ。
素の状態で時速60kmを記録した俺の脚である。
残念ながら、その痛みは生半可なものではない。
「さっき、零璃を蹴りあげた分だ」
今回は腹ではなく、金的だけれどもな。
言葉にできない、声に出すことすらできない激痛が、今ごろ襲っているころだろう。
いつの間にか回り込まれ、そしていきなり予想だにしなかった場所に蹴りが撃ち込まれる。
いくら筋肉達磨といえども、それに勝つことはできなかったということだ。
むしろ、そこが唯一の弱点かもしれないな。
殺したらアウトだから、もちろん渾身の力では蹴っていないが。
おそらく、今彼の体感は生き地獄ではなかろうか。
「魅烙」
彼女に合図すると、魅烙は踊るようにして拳銃を乱射し始める。
その姿は、まるで精霊だ。
戦場の業火を舞い、通り過ぎた人をなぎ倒していく炎の精霊。
「【炎絶精】……」
俺は、魅烙ではなく彼女の母親が持っていた異名の一つを思わず思い出してしまう。
本当に、まるでそれなのだから怖い。




