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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
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第98話 「蹂躙と狼煙」

 その戦いは、俺たちの仲間として魅烙みらくが一人加わったところで、「蹂躙じゅうりんとなんら変わらないものだった。

 遠距離型の魅烙はまだいい。が近距離の攻撃手段しか持っていない神御裂かんみざき姉妹や澪雫みおは、日々の疲れからか圧倒的に足りない体力で複数の敵を。


 しかも、なんといっても明らかに自分よりも総合的なスペックが高い人を相手取って。

 結果、開始10分どころか5分も経っていないだろうところで、力尽きた。


「弱いな」


 筋肉達磨たちが、力なく倒れている澪雫たちを見て嘲るようにつぶやく。

 声は聞こえなかったが、その口の動きは確かに確認できた。


刑道けいち、フォロー!」

「わかって、いる!」


 刑道が地面に両手をつき、苦しそうに歯を食いしばると彼の周り一体の地面が隆起し、ルナナを守護するように要塞を形作る。


 それをみて、零璃も防御にはいろうと後ろに跳び退すさったが。

 一瞬、ほんの一瞬だけ遅く足を掴まれてもう片方の手で殴られた。

 彼のような美少年が、筋肉達磨に邪悪な顔のまま殴られるだけでも目に悪いというのに、腹に焔だろうか……赤いゆらめくものを纏った右足で蹴り飛ばされた。


 ……まあ、そんなことを考えている余裕なんて何一つないんだがな。


「どうした? その程度なのか?」


 今、俺の前には相手の同盟アライアンスリーダーが、電気鋸チェンソーのような武器を持ってとびかかってきたところだった。

 口調は本当に静かなものだったが、その声には確かな凄みと本気がうかがえる。

 あれに触れたら、そのまま五体不満足コースである。


 それを察して、俺はそれをよけるために後ろではなく。

 横に身体をスライドさせることによって回避すると、周りを見渡して悪態をつきそうになった。


「くそっ」


 いや、確かについてしまった。

 完全に囲まれている。


 零璃も片付き、要塞崩しを最後に集中させるためか、それとももうとどめを刺しにきたのか。

 こちらに、序列2桁の達磨が7人、いる。


 なんという絶望感だろうか。

 しかし、今はそれよりもなんというか。


 怒りが優って、それどころではない。


「澪雫とこうそうの分だ」


 呟きながら、周りにじりじりとにじり寄ってくる男たちを一瞥する。

 試合とはいえ、仲間を傷つけてくれた分だけ、俺からも返させていただく。


 そのために、俺は未だ鞘の中に納まったままであった【神剣アンサラー】なるモノを構えると、氷属性を流し込む。

 円時点で【答えて】くれないのならば、こちらから無理やり動かしてやろうという寸法である。


 もちろん、そう簡単に上手くいくとは思っていないが。


「なんだそれは」


 青く、白く。

 眩く輝き出した件に目を細めた男たちへ。


「世界を救った、剣だよ」


 俺は未だ答えてくれそうにないそれを持って、再度構えた。


 世界を救った剣。その言葉を相手が呑み込む前に俺は前進を開始した。

 一足飛びに猛然と加速を開始、洋剣らしく「叩き斬る」ことを考えながら正面に振り下ろす。


 力は人並であり、そこまでといった感じではあるが。

 しかし、その威力は速度によって上乗せされる。


「なっ!?」


 一人、轟沈。

 みねうちではないため安心はできないが、しかし切断面は凍っているため出血はほぼないだろう。

 この空間では能力の出力が制限されていることだし、澪雫たちもそこまで大けがということはないはずだ。


「こいよ」


 二人目は、そのまま挑発してきた同盟アライアンスリーダーだった。

 先ほどと同じ方法で威力を増大させ、強力な一撃を叩き込む。


 が、いともたやすくその打撃は相手の手によって阻まれた。

 弾かれたこと自体に驚愕を隠せずにいながら相手を見れば、零璃の金属のような能力の使い方をしている。


 ただ、それは零璃のように凛と輝いておらず。

 鈍い色を、輝かせていた。


「この程度か。……お飾り大将という報告も、間違いではなかったようだ」


 軽くあしらうと、次の瞬間に動けたのは俺のほうではなく相手だった。

 パワーだけではなく、スピードもあるのだから恐ろしいものである。


 いくら、俺がトップスピードで動き回れるといっても、この至近距離では動けない。

 それを知ってか知らずか、彼の拳は牙をむいて俺に襲い掛かる。


「ふん!」


 風を切る音。心臓をわしづかみにするような剛腕。

 目の前にそれが迫ったとき、俺は何もできていなかった。


 代わりに、2発分の銃声がして。


「だいじょーぶ?」


 魅烙だ。屈託のない笑顔で面白がるようにしている。


 俺は、相手のバランスが崩れたその時に、勢いを消すように押し戻すと足で腹をけり上げる。

 股間でなかったことに感謝をしてもらいたいくらいだ。そんな皮肉が飛び出せる程度には、安堵で来ていたということだろう。


「助かったよ、ありがとう」

「いえいえー」


 この世界の能力は、人体を傷つけられないなんていう都合の良いようにはできていない。

 もちろん、今の状態では出力が抑えられているため、人を殺すことはできない。


 でも、この状態であっても。

 人を傷つけることは、容易である。


「魅烙、こっちに」


 魅烙がうなずいて、こちらの範囲内にはいったのを確認して俺は周りに自分たちを守るように氷のいばらを張り巡らせた。

 こっちが休めば、相手にも休む機会を与えてしまうことになってしまうが、仕方がない。



 次の行動が、反撃の狼煙のろしとならんことを。


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