第97話 「紅き増援」
七日目の対戦相手は、なんというかゴツかった。
といってもそれは体格の話で、そんな人が10人ほどいたら正直どうやって対応したらいいのか分からない。
それであって、今回は相手が全員序列2桁なのだというのだから、面倒なことこの上ない。
そんな彼らに勝てる人なんて、刑道くらいなんじゃないだろうか。
勝てるはずの彼ですら、今は満身創痍一歩手前なのだから勝てない。
確実に、勝てない。
いつも通りというか、毎日見てきたからこそ簡単な変化すらわかりそうなここスタジアムでは、前日とは違って王牙さんではなく、華琉さんが現場監督として来ていた。
「双方、準備は?」
相手の代表者は、ただでさえ筋肉達磨である集団の中でもひときわ異彩を放っているゴリラで、鳴き声を上げそうな声で「こちらはいつでも」と唸った。
いやな予感しかしないが、こちらはいったいどう返せばいいんだろう?
そこまで考えたが、取りあえずは何も考えないことにした。
「ソキウスは?」
ソキウス、という言葉が聞こえて相手。
こちらへ向ける敵意というか、殺意が一段階強くなった気がした。
問題ない、と答えようとしたところでそんなことをされると、集中できる集中もできないだろうし俺以外は疲れ果てているのだから。
本当に残念なことだが、準備は全くできていないようだ。
「いいのか、みんな」
「全然、大丈夫ですよ?」
偽装してもすぐにわかるほど、疲れている。
すでに息は上がりつつあるし、澪雫は完全に剣を持つ手が震えていた。
そんな状態で大丈夫なのか。
華琉さんも当たり前だが気になったようで、みんなの顔を見つめている。
【彼ら】はそんな俺たちを、嘲るように見つめている。
そこまでという感じだな、本当に。
だが、そこでそんな不安定な空気を打破するためか、姿を現した人がいた。
スタジアムから、カツカツと靴の鳴る音が聞こえる。
朱色の長い髪の毛と、華琉さんと同じ金色の瞳。
肩にはバックパックのようなものを背負っているが、しかしそれは今まで【彼女】が持っていたものとは違う、長方形のものだった。
「魅烙?」
「同盟【戦友】と同盟【楽園】の協定より、ただいま参上しました」
この場にいる全員が驚愕に息を呑む中、本人はツカツカとこちらに歩みを進めると、アタッシュケースのようなバックパックを地面にき、何かを組み立て始める。
それを覗き込むと、どうやら拳銃のようなものを組み立てていた。
あくまでも拳銃の「ような」といったのは、それの形状があまりにも拳銃とはかけ離れていたからである。
一つは赤で、一つは白。
組み立て終わったそれは、銃のようにも見えたし短剣のようにも取れる奇妙な形をしていた。
「なにそれ?」
「今回の戦いで、魅烙が使う【属性能力増幅装置】」
名称だけを伝えると、魅烙は俺のほうを向いて一言。
「なんでもどうぞ。命令には従います」
その顔は、まるで昨日の夜と違っていて、鋭い。
猛獣が獲物に狙いを定めたのと、全く同じ感覚がする。
だからといって、彼女に今まで澪雫たちの負担をすべて任せるわけにもいかず。
とりあえず、自由行動ということで彼女を遊撃に回すことにする。
けど、取りあえず彼女に選ばせよう。
「防衛か遊撃かどっちがいい?」
「後者が、いいかな」
うん、知ってた。
知ってたというか、予想はついていた節がある。
「魅烙も合わせて、8人でいいの?」
「準備、いいです」
けっして、状態はいい方ではないが。
だが、姉さんが派遣してくれたんだろうし、その機体には答えるべきか。
うん、そうだな。
「全員、準備はいいな?」
元気がなさそうだけれども、大丈夫といえば大丈夫なんだろう。
全員がうなずいたところで、俺は世界を救った剣を抜いた。
【神剣アンサラー】。今では、まだ何も反応がないけれども。
きっと、このあと俺が強くなれば。
……"答えて"くれる、はずだから。




