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蒼氷のゼニス  作者: 鶴琉世乃
第1部:第3章
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第96話 「癒しの冷気」

 その日の始まりは、みんなの暗い顔から始まった。

 何が起こっているのかはすぐにわかるが、すべて管理できなかった俺のせいであるため、何もいうことができない。


 だからこそ、彼女たちに支援することにした。


「手をつないで、みんなで」

「……なぜです?」


 きょとん、とした顔でこちらを見つめる澪雫みおに、俺は答えずほらと急かす。

 そして、7人が輪を創るようにして手をつないだのを確認し、俺の属性を注ぎ込む。

 ひんやりしているのか、ルナナをはじめ数人が身を震わせたが、しかしいきわたったようだ。


「これで、能力的には問題ないだろ」

「あの」

「ん?」


 ここで、俺に話しかけたのはルナナ。

 何を言いたいのはすぐにわかったが、残念ながらこの短時間でその技術を教えることはできないんだよな。


「私、能力を体力に変換する術があれ、どうしても理解でいないんですよね」


 学問的な意味だったか。


「まあ、気にせず今は使えばいいと思うよ」

「はい」


 できる、ということなのかな。

 まあ、それなら問題はないのだけれど。


 他の人たちも出来たようだ。

 たまにできない人がいるらしいが、今回は問題なかった。


「みんな、これで少しくらいは回復したかな」

「……大丈夫なのですか?」

「いらぬ心配はご無用」


 心配してくれているのはいいが、一番最初にそうさせるようなことをしてくれたのはそっちである。

 7日目なのだから、俺は制限をしなくてもいいって言われたし。


 それは、試合前のことも含めるんだろうと、俺は解釈したわけなんだがな。


「誰も欠けさせないから、安心してくれ」

「……でも」


 実際、あまり考えたくないことではあるのだが。

 昨日、魅烙にあんなことを言われたから、変なことを考えてしまったという節はある。


 どうしても、だからといって魅烙のせいにするというわけにもいかず。

 だからこそ、自分の精神的な弱さに打ちのめされてしまうときだってある。


「ネクサス君」

「ん?」


 澪雫に話しかけられて我に返り、振り向くとそこには彼女だけではなく、ほかのみんなも待っていた。

 全員が全員、まだ微妙なものの顔色は明らかによくなっている。


 よかった。俺のやっていたことは無駄ではなかったということだ。


「自分のことを、一番に思ってしまってもいいんですよ?」

「いや、それはできないね」


 ここだけは、頑なにいかせてもらおうかな。

 だからこそ、できるだけ何もしたくないんだが。


 ここの数人を救えなくて、数百数万といる他の人を救えるかといわれたら救えないだろう。

 俺の父親は数十億の人々を救った。


 だからこそ、俺は……。

 思い詰めれば思い詰めるほど、自分がどこかに行ってしまいそうになってしまう感覚がする。

 不安で、自分を見失ってしまうかもしれない。


「……変な悩みを、持っているから成長できないんじゃないか? ネクストさんも、最初はそう思っていなかっただろうさ」


 そりゃあ。親父は、母親を守るためならその言葉通り世界を平気で敵に回すような人だからな。

 戦いに参加したのだって、「冷の身が心配だから」っていう理由だったはず。


 父親を美化して見ている人は多いが、残念ながら人々は結果を見る。

 あの戦争で、父親に敗北した人だって、ある意味では救世主になりえたかもしれないのに。


 だからこそ、戦争というものは正義と正義の戦いだと思っているのだ。

 人と人の喧嘩などもそう。理由ない戦いもあれば、理由ある火種も存在するということだろう。


 自分がいくらだけ利益を得られるのか。それが問題なのであって。

 それは、精神的な支えとなるモノを守るという意味でも同意義である、と俺は思っている。


「もう少しだけ」


 その言葉を、俺は何度呟いただろうか。

 何度、その「もう少し」を手に入れることがかなわなかっただろうか。


 今度こそ、届かせてみなければ。


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