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蒼氷のゼニス  作者: 鶴琉世乃
第1部:第3章
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第91話 「無理は禁物」

 本当にあんな感じでよかったんだろうか。

 俺、まったく何もやっていないんだけれども。


「今日の相手はさすがにひどすぎませんか?」


 ため息をつきながら、刀の手入れをしているのは澪雫みおだ。

 実に落ち着いているが、その顔は憤りに満ちている。

 今日の相手がそんなに気に入らなかったのか、顔は歪んで般若一歩手前になっていた。


 美少女でも、怒ると怖い。

 正直言うと、威圧だけでも半端ではないのに。


「あの程度なら、一人で充分」


 ここにも、憤りを感じている人が一人いた。

 澪雫と同じように刀を、こちらは赤に染まったまま銀に戻らない「それ」を除菌剤だろうか、何かでふき取っているこうが吐き捨てるようにして言葉に出した。


「最初の煽りはなんだったのか、全く不明」

「恐怖心を抑えたかったんじゃないのか」


 考えれば考えるほど、試合前のあの威勢はどこに行ったのかと悩む程度には弱かった。

 俺の温存命令なんて必要なかったのである。


 二日目と三日目の人を束にしてかからせた方が負担が少ないかもしれない、と本気で思ったり思っていなかったり。


「それそもそもが相手の作戦かも」

「無駄すぎるだろ……」


 でも、相手の目的が分かっていない以上。

 相手が何をするのか、ただただ不思議で。

 少々の不気味さすら感じさせるあたり、中々だな。


「澪雫、刀のほうはどうだ?」

「ちゃんと、私に適応しているみたいでとても使いやすいです」


 それにしても、彼女が刀に向けるその視線はいったいなんだろう?

 わが子を見つめるような母親の眼をしているんだが。


「最近は、澪雫ちゃん能力を使うようになった?」

「……実は、少しだけ。……紅さんの付与エンチャント能力には及びませんが、似たようなことを師範もなさっていたので」


 やっぱり澪雫は、俺の母親がすることは何でもまねしようとする。

 だから、言い方は悪いが俺の母親を利用すれば、澪雫にいうことを聞かせるのは容易だろう。


 現に、俺は今その手を使っているんだし。


「そうだ、紅のその能力は特殊なのか?」

「これは、【属性能力】に分類される一つのジャンル。特別性はないけれど、使う人が少ないだけ」


 まあ、普通の人は武器に付与させるくらいなら自分で使った方が早いからな。

 そんな、手間のかかることはしないだろう。


「現に、この学園で使う人は神御裂かんみざきの派閥で、私たちと同じようなものを使う人だけ。一般的に

、わざわざ付与させなくても自分で武器を生成すれば基から付与されている状態になる」


 解説お疲れ様。

 紅が詳しく説明してくれたので、いうことは特にない。

 というか、俺もよくわからなかった。


 簡単に言えば、スピード勝負の俺たちは手間をかけずに相手を倒したがる、ということだ。


「そんなこと考えても、仕方ないことは仕方ないんだけど」

「……確かにそうですが、明日からどうするのです?」

「言いつけ通り、何もしないよ」


 俺がリーダーのはずなんだが。


「盟主が何か言いたげ」

「なんでしょうか?」


 俺がリーダーのはずなんだが、二人が怖くて言い返せない!

 祖しかし、このくらいは言っておかないとダメか。


「でも、メンバーの誰かが戦闘不能になったら、その時は誰が何を言おうと聞かないからな」

「……決して無理はなさらぬよう」


 俺の放った言葉の意味が分かったのか、澪雫も紅も不安げな顔でこちらを見つめる。


「アルカディア家は、特に仲間内への愛情が深いと聞いた、から。無理は駄目」


 そう呟いた黒髪の少女は、こちらを見つめてそのまま目を離さなかった。


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