第89話 「試合準備」
ついに、この日がきたのだ。
「さて、行きますか」
俺が声をかけると、そこには6人の仲間たちがいた。
ルナナがちょっと緊張か顔が険しいけど、ほかの人はみんなリラックスしている。
ただ、そこから漏れ出しそうな闘争心は残念ながら抑え切れていない。
「ルナナ、俺から離れないで」
「は、はい!」
彼女をサポートするのは、学園トップクラスの痕猫刑道。
いい感じになってるんだよな、これって。
能力面の訓練も二人でやっていたみたいだし。
二人の役目は範囲攻撃だ。とりあえず初手混乱を誘う。
「澪雫と紅、蒼は動き回っていいから」
「了解」
「はい」
「おけー」
返事は順番に紅、澪雫、蒼。
返事一つで彼女たちの正確がわかるというのは、なかなかだろう。
彼女たちの役目は攪乱。かき乱しつつ取り敢えずは、彼女たちだけで
「剣士3人は遊撃、その他は迎撃。では作戦会議終了」
作戦なんて、今まで考えなくても個々がやってくれたけど。
澪雫たちによると、「トップに指揮官としての力は必要」らしい。
俺も攻めながら、というのは相当の技術が必要だそうだから……。
最初の6戦は、指揮に集中しろという彼女たちの考えだろうか?
会場に着くと、そこにはざっとみても400人程度の男たちが集まってこちらをにらみつけていた。
見たところ、女性は一人も見あたらない。
と、一人の幹部格だろうか。男が俺たちをせせら笑った。
「女ばっかりじゃねーか」
「だけど、……か弱い女ばっかりじゃ、ない」
反論したのは紅。
確かに、か弱い女ばっかりではない。
3人の女剣士は、その存在こそ日本に知れ渡っているのだから。
零璃も女としてカウントしている可能性が少しはあるけれども。
「身内同盟かー!」
「身内の仲良し同盟に、負ける訳ないですよね?」
次の反論は澪雫。
身内……なのかな? 身内か。
これは反論できないが、澪雫は怯まない。
身内っていっても、残念ながら序列は全員うえのほう、のはず。
「たった7人じゃねえか」
「300人以上の烏合の衆と比べられても」
辛辣な態度で突っぱねたのは刑道である。
さすがにこれは精神に来たようで、男は「覚えてろっ」と捨てぜりふを試合開始前から吐くと、そそくさと人々を連れて準備に入った。
「みんな、挑発しすぎな」
「……正論しか言ってない」
「だから相手がいらいらしてるんだよ」
正論ほど、ぶつけられていらいらするモノはないだろう。
相手は先輩なんだし、少しは敬うべきではないのか。
……能力者社会は実力主義とはいえ。
「盟主は、力をできるだけ使わないでね」
「ん?」
「7戦目まで、お飾り大将の役目をしてもらうからっ」
零璃の提案は、最初思いっきり手加減しろとのこと。
しかし、そうすると実質6人対400越であり、みんなの負担がさらにあがる。
特に問題なのは遊撃部隊の三人だ。
零璃は俺たちの防御、ルナナと刑道は混乱作用を引き起こすだけで、いちばんはやっぱりあの三人が……。
「お飾り?」
「それに、私たちの貴方に対する忠誠心のアピールにもなります」
澪雫がとんでもないことを言い始めた。
忠誠心なんて、今の俺に一番ふさわしくないものだろう。
いいのか、それで。
「いや……」
「油断させるのー! あっちも本命は最後なんだから! 尊敬してるし!」
痺れを切らしたのか、落ち着きのない説明をするのは蒼だ。
俺のどこに尊敬する部分があるのか本当に分からないし、俺なんて澪雫に一方的な試合を持ち込まれるほど弱いんだが……。
まあ、ここで深く考えるのをやめよう。
先にこの試合。やっていきましょ。
「分かったよ。ただ、絶対に無理はしないでくれ」
「私たちを誰だと思ってるのかなー?」
そういうと、刀を居合いの型……? に構えて口上を呟く。
「【5聖家:神御裂家】次女、神御裂蒼。ただいまけんざーん!」
無邪気丸出しだが、いやな感じはしない。
むしろ、それが彼女の持ち味であり、だからこそ元気づけられる。
「……負ける気がしなくなった。行こう」
これも全部、彼女たちのおかげだな。
さすがだ。本当に頼りになる。




