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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
88/199

第88話 「看板娘ルナナ」

もう一話更新しますぞー

 ルナナって、どこの店で働いてるんだろう?


 国語の勉強を澪雫みおとしている時、俺は突然そんなことを思い出してしまった。

 そういえば、何処かの看板娘だった気がするんだけれども、どこだったんだろう?


「天王子学園の中だということは確定しているんですけどね」


 うん、それは知っている。

 ていうか何処かで彼女を見かけた記憶は、確かにあるのだ。

 しかし、どこだったかな、ええと。


 俺がこの学園で行ったことのある喫茶店は……数えるほどしかないんだがなぁ。


「丁度、今日の分が終わりましたし休憩しに行きますか?」

「おう」


 丁度、澪雫も気になっていたようだ。

 ちょっと着替えるので後ろを向いてください、と俺を回し。


 布擦れの音や、「んしょっ」と言った何とも言い難い声。

 容赦なく漂ってくる、美少女の香りに俺がむずむずしながら数分後、彼女は「いいですよ」と合図をする。


「おー」


 着替え終わった澪雫は、うん。

 特に露出は多くないし、清純そうではあるのだが、その身体が凄い。


 妙に強調されているというか、なんというか。

 とにかく、凄いのだ。


「どうですか?」

「……綺麗だね」


 俺が呟くと、、彼女は目を細めた。

 そして「行きましょう」と俺の背中を押して、部屋を出ると鍵をかけた。


 うーん。いい香りがする。

 彼女がいる、それだけで頭がぼぅっとしていると、澪雫は俺の手を握った。


「……なんだか、澪雫も自然にできるようになってきたよな」

「好きな人とは、1秒でも多くふれあっていたいモノなんですよ?」


 言うねぇ。

 入学直後は、俺を親の敵のようににらみつけていたというのに。

 今ではすっかり、デレデレである。


 最初の方のギャップからか、余計愛おしく思えてしまうのは。

 正常なことなのだろうか。


「暑いですねー」

「確かに」


 と、上を向く。

 目を細めていても直視できない太陽と、蝉の声が聞こえてきて殊更気温が高く感じた。


 天王子学園の中は、夏休みだというのに人がそこそこいる。

 やっぱり、何というかいろいろとあるのだろうな。


「あ、この店みたいですね。前来たことありましたっけ?」


 澪雫が指さしたのは、なんとなんと。

 ……俺が、澪雫に交際を切り出したあの店だった。


 店名は「EZAΦOSエザフォス」。

 真ん中1文字だけがギリシャ文字なのは、元々「エザフォス」というのは古代ギリシャ語で【大地】を指していたからだろう。


 店内にはいると、そこにはうん。

 巻瀬まきせルナナが、ウェイトレスの格好で礼をしたまま、俺たちを見て一瞬降着していた。


「いらっしゃいま……せ?」

「ルナナ、見に来たよ」


 ちなみに、この前まで巻瀬さんと呼んでいたのだが。

 どうも、彼女はそっちで呼ばれるよりも「ルナナ」で呼ばれる方がなれているらしく、こちらで呼んでくれと言われたのだ。


 親しくなった人とは下の名前で呼ぶ癖が俺にはあったから、丁度よかったが。


澪雫みおさんも、いらっしゃいませ」

「いえいえ」


 澪雫に気づき、彼女にも礼をするルナナ。

 その姿は、なんというか熟練されている動きであった。


「綺麗なお店ですね」

「……ここ、俺が澪雫とつきあい始めた場所なんだけど?」

「あぅ」


 店内を見渡していた澪雫が、恥ずかしそうに顔を赤らめつつも舌を出す。


「えへへ。そういえばここだったのですね」

「まあね」

「あのときああ言われて、頭が真っ白になっていたのですよ」


 うん、俺も真っ白になりかけたから大丈夫だ。

 恐らく、あのとき刑道けいちが問題とはいえ来ていなかったら、そのまま気まずい空気が流れていたのかもしれない。


 ルナナが、注文をききにきた。


「コーヒー二つと……澪雫好きなもの選んでいいぞ」

「では、ショートケーキ一つお願いします」


 太るから、とか言って何も頼まないものだと思っていたが意外にも甘いモノを頼みに言った澪雫。

 支障が出ないのか不安だったけれど、きっとそのぶん練習できる都下思っているはずだからそっとしておいた。


「ネクサスさんは?」

「俺はー。……ルナナ、おすすめは?」


 俺に、今日のおすすめラインナップを教えてくれるルナナ。

 この店、ケーキだけではなくクッキーなどのものから、ピザなんていう軽食まで売っているのだから中々だろう。


 真夏の炎天下でもこれだけ人が来るし、確かに繁盛しているのかもしれない。


 ……勿論、ふつうは俺が入っていいような場所でもない気がしたが、数人の男性も今日はいた。


「じゃあそれで」

「かしこまりました! ゆっくりしていってくださいね」


 店の裏側に引っ込むルナナ。

 その間に、俺は異様な視線がないかどうか確かめることにした。


「視線チェックしてみて」

「……やっぱり、彼女に意識が行っている方が多いですね」


 この視線チェック、勿論俺が自意識過剰なクソ野郎だからというわけではなく、勿論ルナナにたいする視線のことである。

 いくつか、澪雫や俺に注目している人も居るが、それはどうでもいい。


「確か、天王子学園の新聞にも何回か載ったことがありますよね」

「そう言っちゃったら、澪雫も載ったことあるだろ」


 この学園の人気ランキング、いったいどんな基準で選んでいるのだとか全く分からないが、恐らく無作為に1学年3000人ほど選出されているのだろう。

 その中で、ルナナも澪雫も、さらに言えばほかのメンバーも乗ったことがある。


「でも、アレは」

「人気ランキングだろうがー。……ま、残念ながら俺がそこにとどまったわけだが」


 彼女にしたい女子生徒ランキング、とやらに澪雫が2位の座にて君臨していたのだ。

 集計していた時期が、丁度澪雫とつきあい始めた頃のことを考えると、実に笑えるところがある。


「そういう所、嫌いじゃないですよ」

「ん?」

「ふふふ」


 ちょっと何をいいたいのか分からなかった。

 しかし、澪雫は口に手を当てるばかり。


 ちなみに、1位は姉さんで3位はヴァロッサだった。

 零璃がなんか、男なのに女に間違われていたらしく、実際の票数だけを数えると10位くらいにいたということを聞いて、刑道と笑いで床を転げ回った記憶がある。


「お待たせしました」


 雑談をしているうちに、ルナナが食料と飲料を持ってきた。

 俺はコーヒーとチョコレートケーキ、澪雫はコーヒーとショートケーキ。


「ルナナ、今日はこれない感じ?」

「いえ、終わったらすぐに行きますよ」

「分かった」


 彼女に質問をすると、彼女はそう笑顔で答える。

 やっぱり、いい子だったのだ。


 彼女は。









「コーヒー、美味しかったよ。また来る」

「ありがとうございますー!」


 結局、1時間くらいいただろうか。

 俺と澪雫が店を出る頃には、すでに空は赤く染められ始めている。


「あそこは頻繁に行きたいお店です」

「……ケーキ、美味しかったのか?」

「はい」


 澪雫も満足だったようだし、こちらとしてもうれしい限りである。

 確かに、あそこはなかなかのいい店だったと思う。


 と、周りに誰もいないことを確認してつっこんだ話をしてくる澪雫。


「魅烙さんとは、どんな感じなのです?」

「んー。……まあぼちぼち、かな。あっちも忙しいみたいだし」


 実は、7連戦の日程がごっそり数日延びた。

 理由は不明だが、1日前に別同盟アライアンスの人があわてて挑戦状を叩き直しにきたのだ。


 何がしたいのか分からず、一同唖然としていたが。

 相手の顔が余裕のある顔ではなかったため、納得のいく訓練ができなかったのだろうと推測する。


「明日から7連戦か……」

「ネクサス君は8連戦ですよ」

「……うん」


 みんなは7連戦。

 そして俺は、そのあとに魅烙を引き抜くという手はずになっている。


 正直、最後の陸駆りくさんとの戦いがいちばん難関だ。

 特に補足することは何もないだろう、姉さんの仲間である。


「最初の6戦は、私たちが動くので温存をしてくださいね」

「澪雫は?」

「5時間も寝れば回復します」


 寝れば回復するって……。

 彼女の身体は、どんな風に改造されているのだろうと不安になりざるを得なかったが、しかし澪雫は。


 くるっと振り向くと、こちらを見つめながら耳元にささやく。


「勿論、添い寝していただけたら……もっと回復しますけどっ」


 今まで聞いた中でいちばん妖艶で甘美な声だった。

 ……甘いしびれが背中を走り、ぞくっと身体が反応する程度には。

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