第87話 「魅烙と澪雫の覚悟」
2015の、祐夢猫ゼノ最初の更新です。
あけましておめでとうございます!
時間が来たようだ。
「あー、ちょっと出かけてくる」
「どうしたのですか?」
「野暮用ー」
食堂の方から顔を覗かせた澪雫に断りを入れて、俺は玄関に向かう。
漏れてくるのは、香ばしいにおいだ。きっとみんなのためにカレーでも作っていたのだろうか。
「そうですか、いってらっしゃいませ」
「すぐに帰るけど、先に食べてて構わないから」
簡単に終わらせ、外にでる。
何というか、夏だと思う。
……少々肌寒いが、それが心地よく身体を通り過ぎていた。
空の色はすでに藍色に変わっており、なかなか。
と、目の前に俺を待ってくれていたのだろう、彼女の姿が見える。
「……魅烙」
「あ、ネクサスくん。来てくれた……」
緋色の髪の毛が見える。
数ヶ月ぶりだろうか、こうやって顔を合わせるのは。
「久しぶり」
「だねっ」
魅烙は、俺の方を向くとウインクするように目を片方閉じる。
その顔には、うれしさ半分、モノ悲しさ半分といったくらいだろうか、とにかく複雑そうな顔をしていたのだ。
夏だからか、露出はさらにひどいモノになっていたが。
「最近、忙しい?」
「ああ」
「……そっか」
そう答えた彼女の顔は、どこか寂しそうで。
ちょっと目を離したら、儚く居なくなってしまいそうな雰囲気すら漂わせる。
そこで俺が考えたのは。
「夏……7日間耐久が終わったら、迎えにいく」
「え……」
同盟【楽園】から、魅烙をこちらに引き込むことだった。
彼女が一人、そんな顔をしてほしくないのだ。
入学したときに出会った人だから。
澪雫よりも、この学園にはいるときに早く出会った少女だから。
「陸駆さんに勝つよ。……そして一緒に、海に行こう」
彼女にそういって、俺は夏の夜空を見つめる。
うん、かすむことなく美しい夜空だ。
「嬉しい……」
「ん」
「……ね。……しても、いい?」
彼女の声が聞こえず、俺は彼女に聞き返そうとする。
が、それよりも先に彼女が動き、俺は魅烙に抱きしめられていた。
魅烙は、顔を俺の胸の中に埋めると上目遣いになってこちらをみた。
「抱きしめても、いい?」
「いいよ」
ちょっと言うのが遅かったか。
まあ、俺が一回目聞き取れなかったことにも問題はあるためそっとしておく。
「あのね」
「ん?」
そういえば、魅烙はもう「にゃーにゃー」言わなくなったんだな。
その方が何倍も美しいし、その方が何倍も魅力的なのだからこれからは言わないことを祈る。
「今でも、ネクサス君のことずっと好きだから」
「……おお?」
「だから、魅烙のことを、忘れないで?」
なんだか、別れの話みたいじゃないか。
俺がはっとして魅烙を見つめるころ、すでに彼女は俺から離れてきびすを返すところだった。
「おい、魅烙!?」
しかし彼女は止まらない。
あっという間に角を曲がると、俺の視界から掻き消えた。
「……魅烙さんと会ってたんですか?」
「うん」
とりあえず、途方に暮れて俺は澪雫に相談することにした。
澪雫は、魅烙の気持ちが分かっているだろうし、正直俺にはどうしようもないからだ。
「……私は、構いませんよ」
「ん?」
これまたいきなりの発言で、何がいいたいのかよく分からなかったが。
しかし、彼女の目を見たらその意味もすぐにわかった。
「師範から聞きましたが、すでに許嫁がいるそうですね」
「まあ、伝統だからな」
母親から聞いていたか。
許嫁は、俺が生まれる前というか生まれることが確定してすぐに決まってるから、何ともいえないんだが。
それが異母兄妹というのも、なかなか理解に苦しむもの?
近親相姦? うん、確かにそれだけどすでに先年近くそうだし、能力者がそうしたところで身体的問題は見つからなかったというのだから、もはや何も言うまい。
「なので、私は構いません。……平等にしていただけたら」
「おお……」
本当にいいのか、と聞きたくなったが彼女は本気らしい。
まず、目が笑っていない。そこからも分かる程度には真面目だろう。
次に、これ恐らく。
俺が澪雫と付き合うことになったとき、母親が澪雫にすべてを暴露したと思うんだ。
だから、すぐに別れていなかったということは、最初から覚悟済みということだろう。
「まあ、そんなことをしたら誰が側室で誰が本妻か、本当にもめそうですけどね!」
「怖い怖い。って、もういいの?」
「何がですか?」
遊びじゃないんですよね? と俺に聞く少女。
俺がうなずくと、澪雫は「なら問題はありませんよね」と簡単にまとめた。
「私は、師範を見ていますから」
「あ」
「そういうことですよ」
ネクサス君の番にでも、何でもなりますよと。
目の前の美少女は、真顔でそれを言ってのけたのだった。
訳の分からない人が多いかもしれませんが、主人公の状況が特殊すぎるだけです。




