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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
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第86話 「個々の事情」

「ネクサス君は、実家にはお帰りになられるのです?」


 拠点で、訓練を受ける俺たちの図。

 俺は澪雫みおそうと剣の訓練、ルナナは零璃れいりこうと能力の訓練をしている。


「いや、俺は帰らないけど。……澪雫は?」

「私は、夏休みはいつも実家にいないんですよ? 小さい頃から、そうでしたし問題はないかと」


 澪雫は、本当に小さい頃から夏の合宿に行っていたらしく、そんなに夏休みに帰る、という思考がなかったらしい。

 逆に、俺の心配をしてくれるとはどういうことなんだろうか。


「旅行とか、海とかどうする?」

「前半はすべて訓練や勉強につぎ込んで、後半に遊びに行くのと、その逆どっちがいいです?」


 つぎ込んで、という表現に少々の戦慄を覚えつつも、俺は考える。

 最初に遊んで後で苦しむか、後で遊ぶかという問題か。


 いやいや、決まってるでしょ。


「前者で」


 やっぱり、と目を細める澪雫。

 その表情は、何というか子供を見つめる母親のような、そんな慈悲深さを心底から感じさせてくれるものだった。


「訓練は訓練として、午前中にやって。勉強はほどほどに私の部屋でしましょう」

「手料理作ってくれるんだ」

「はい。三食全部作りますよー」


 にこにこ、と表情を緩ませて澪雫は腕をまくった。

 うーん、可愛い。最高。満点。


「ネクサス君は、幸せそうに食べてくれるので私も嬉しいのですよ」

「いやだって、本当に美味しいし」


 これが冗談じゃないほど美味しいのだから、本当に俺は幸せ者だと思う。

 思うんだけど、何処かで食べたような味がしてくるのは、やっぱり澪雫の長所であり短所であるところが原因だろうか。


「師範と、同じ味はできてます?」

「ちょっと違うけど、確かににてるな」


 ほらやっぱり。

 母親に、おそらく料理も教わっていたのだろう。

 小さい頃からずっとだもんな、そりゃあそうなんだけど。


 何で自分の母親の味を出そうとしないんだ。

 大丈夫なのかな、澪雫って。






「ルナナ、できない……」

「わー。そりゃあ無茶だろ……」


 ついに、というか、やっぱり、というか。

 巻瀬まきせさんが弱音を吐き始める。


 それはでも、確かにそうだろう。

 俺からみても、正直こうの訓練というのは厳しい。


 丁寧という点では全く問題がないのだが、それぞれに妥協が許されないということから分かるだろうか。

 とにかく、完璧になるまで繰り返しやる。

 しかも、指摘がすべて的確なのはそれだけでも精神にくるモノがある。


「でも」

「巻瀬さんは、どんな感じでここに来るまでやってたんだ?」

「殆ど何も」


 まー。そうだろうな。

 彼女の話によると、元々学者希望でここにきたらしいから。


 巻瀬さんがこの同盟アライアンスにきたのは、そういう訓練も受けたいからだと聞いていたのだが、やっぱりダメだ。


「……まあ、そんな気はしたけれども。……なら神御裂かんみざきさん、僕がやるよ」

「助かる」


 ここで刑道けいちからのフォロー。

 先ほどまで傍観していた……というよりは隣の同盟アライアンス楽園エーリュシオン】で先輩方に教わってた帰りらしく、まだ肩で息をしていたのだがとりあえず変わることになる。


 ふと、俺は零璃はどうなのかと思って彼女……じゃなくて彼に話しかけた。


零璃れいりも、正直そこまで学園に来るまでやってないだろ?」

「ボクはあれだよ。一応【5聖家】の一員だし、基本的なことはすべてたたき込んでくれたから……」


 叩き込んでくれた、か。

 確かに朱玄さんは剣も強かったし、確かにそうかもしれないけれども。


 優しくも厳しい、と零璃は言っていたし結構いい人なんだろうな。

 とは思う。


 実際、俺にもよく気にかけてくれるのだ。


「普段、鍛冶しかしていないけどね。……でも、やっぱり自分の身体は自分でも守らなきゃねって」

「でも、鍛冶って力使うんじゃないのか?」

「使うよ?」


 零璃が、すぐ近くに鉄の塊を生成し、軽々と持ち上げた。


「持ってみて」

「……いや、無理」


 無理です。重いことがすぐに分かるから。

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