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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
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第82話 「拠点確保」

「テストどうだった?」


 そんな声があちこちから聞こえる、夏休み一日前。

 今日に授業はなく、あるのはテストの返却である。


 実技とか、筆記とか関係なく教師が教室に入ってきては、受講している生徒を呼んでテストの結果を返却していく。


 実に自由で、しかしいつ何がくるかわからないというルーレット的な意味合いも含まれそうなもの。


「授業は免除でも、テストは全科目あるなんて訊いてない」


 そういいながら、机に伏せているのは零璃れいりである。

 特進クラスに入って、最初に配られた書類には確かに書かれていたし、それについて学園説明会の日も王牙おうがさんから口で何度も言われていた。

 それでも聞いていなかったということは、完全に彼女……じゃなかった彼の問題だろう。


「ネクサス君、成績はどうだったんですか?」

「……ええと。残念なことに、日本語に問題ありのようだ」

「しゃべるのは全く問題ないのに、やっぱり書きが問題です?」


 ちょうど、今王牙さんがすべての成績が載った一覧表を配っているところで。

 俺は、それを受け取ってすぐに澪雫みおに渡したが、渡した後に少し後悔した。


「澪雫ちゃん、何でもできる、すごい」


 最初から物静かなこうが、思わず片言カタコトになってしまう程度には成績が良かった。

 どのくらいかというと、1年生2万人中3位である。

 俺は日本語でとんでもないことになっていたため、ぎりぎり4ケタだったが。


「そんなことないですよ。……ネクサス君は、今度から私と個別に勉強をしましょうか」


 夏休み明けには、頑張って取り戻しましょうと澪雫は笑う。

 しかし、その眼はマジである。本気とかいて【マジ】と読む。


 一切笑っていないところを見るに、夏休みは遊ぶことができないかもしれない。というところまでは予想できた。


「休息は休息、活動は活動ですよ」


 お、澪雫やっさしー!

 ということは、休むときはちゃんとということだから。


 海、行きたいな。

 とか、の前に少しやろうとしていることをみんなに伝える。


 ちなみに、他のメンバーはどんぐりの背比べ的に足並み一緒だった。

 みんな中の上。いや、零璃だけ5ケタ。

 何ともまあ、実技テストはよかったものの筆記で轟沈してしまったらしい。


「拠点の確保、ですか?」

「さすがに、ずっと姉さんのところを借りるわけにもいかないし」


 できれば姉さんの同盟アライアンスと程よくちかいところで、簡単に拠点制圧できそうなところといえば一つしかないのだが、なんせそこの人数が多い。


「一人、30人を相手しきゃいけないっていうのがな」

「ああ……全然大丈夫だよ」


 頼もしいことに、そう言ってくれたのはこうの、双子の妹であるそうだった。

 確かに、紅も蒼も神御裂かんみざき家の娘で、刀の名手。

 澪雫は言わずもがなで、他のメンバーも強力なんだが……。


「余裕、というのはおかしいかもしれないけど、全員4ケタなんだろ?」


 ここで刑道けいちの言っているのは、学園の序列だ。

 決して、テストの点数の順位ではない。


 この学園で上から何番目に強いか、といったものだ。


「いや、半分以上5ケタだな」


 この学園、6万人も人がいるんだから正直9999位でも中々強い方だと総合的には思われる。


 でも、それは正直間違いだ。

 力の均衡なんて、恐らく上位500対その他59500で釣り合うくらいだろう。


「まあ、1対多数の演習も時には必要だと思っていた頃だし、ちょうどいいよね」


 零璃、さらっと酷いことを言う。

 演習とか、相手に失礼。


 だけど、あながち間違っていないから何とも言えない空気は漂っている。

 演習……か。少し言葉は悪いが今回はそういうことにさせてもらおう。






「ということで、拠点の譲渡もしくは戦闘を要求させていただきます」

「……ひぃ!」


 王牙さんに印を捺してもらい、正式なものとなった挑戦状というか、宣戦布告を相手のトップにたたきつける。

 360人という、中々巨大な同盟だが、そこの構成員は残念ながら、相手にするまでもなくすぐに譲渡の方向へと進んで行ってしまった。


 正直、俺たちとしては戦闘のほうがよかった。

 俺は澪雫や神御裂姉妹に教わった剣の腕を試したかったし、澪雫は実戦で新しくオーダーメイドした刀を試したかったらしい。

 しかし、それがかなうのはもう少し後に、なりそうだ。


「あっけないですね」


 すごすごと、出ていく準備を始める同盟アライアンス【レグレス】の人たちを監視しながら、澪雫は俺の隣ではぁとため息を吐く。

 確かに、あっけなさすぎる気もしたが。


 うーん。ここは「【ソキウス】なんて認めねぇ!」って突っかかってきてほしかったものだ。

 それがないということは、俺が【伝説】と【剣聖】の息子だということを知っていると。


 そして、それに怖気づいたということなんだろう。

 驕りかもしれないけれども、自分の中で感じ取れる。


「ところで、聞いてなかったけどその二つの刀」

「はい、零璃君に作ってもらったんですよ。すごいですよね」

「その二つの刀、名前は?」


 その答えは、彼女が突き出した、その二つをしまうための鞘に刻まれてあった。


「ほう……。【陰琥インク】と【陽琥ヨウコ】か」

「なんだか、中国的な響きですよね」


 刀として、完成はされているようだが。

 ……ていうか、素人目で見てもその完成度が高いのが分かる。


 澪雫が母親に返した二つは、確かにすごいものだけれども。

 一目では、長い年月のせいでわからないんだが、ほぼ新品のものはここまで輝くのかと。


「そういえば、お金を請求されていないです」

「うん、気にしなくてもいいんじゃないか?」


 オーダーメイドということで、値段は確かにした。

 でもいいのだ。俺が全部払ったから。

 零璃は、俺の考えることをこの短期間の間にもしっかりと理解できている。


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