第81話 外伝「夏の夜 ver.王牙」
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「……夏ね」
夏の夜空。
簡単な言葉であるが、その真意は誰にもわからない。
そんな空を見上げると、不意に俺の隣で一人の女性が呟いた。
夏。……夏。
彼女の名前は華琉。俺の配偶者ではあるが、俺の恋人ではなかった人だ。
華琉は、何を思って「夏」というワードを口にしたのだろう。
俺には、わからない。
「魅烙、やっぱり最初は駄目だった」
「うーん。まあそうだろうとは思ってたけれど」
夏とはいえ、外は肌寒い。
俺は彼女の肩に手をまわそうとし、少々踏みとどまって。
彼女に自分が着ていたジャンパーをかぶせてやってから、彼女に手をまわした。
「うん、ありがと」
「……なんだか、丸くなったよな本当に」
学園での顔は、生徒に人気がある美人教師。
同時に、凄腕の狙撃手である彼女。
しかし、二人でいるとこんなにも、感情を押し殺そうとするのだから不思議だ。
いつも通りでいいのに。
「何か、映画でも見たか?」
「……ばれちゃった、えへへ」
やっぱり、彼女は素のほうが可愛い。
そろそろ40にもなるのに、可愛いという言葉を使うのもどうかと思うが、とにかく彼女にはそのワードがよく似合う。
無邪気に笑うところ、口にすぐ出すところとか、いろいろ。
そんなところも、最初は嫌いだったけれど20年も一緒に暮らしていれば、それも魅力に変わるというものだろう。
「王牙、魅烙大丈夫かな……」
やっぱり、素は心配性でおっちょこちょいで、少々小悪魔的な雰囲気を惜しげもなくさらしている彼女が一番魅力的だ。
「魅烙ならちゃんとやってくれるし、魅烙は本気でネクサスのことが好きだろうし、大丈夫だろう」
「楽観主義者めっ」
楽観主義者、というのは褒め言葉の一種だろうか?
いや、きっとけなしていると同時に褒めてくれているのだと思うけれども。
華琉が毒を吐くことなんて、ほとんどないんだから。
やっぱり、でも。
最初は愛情なんて持っていなくても、やっぱり今になったら愛情が噴き出してくるものなんだよな。
「華琉、俺のこと好きか?」
「……好きじゃなかったら、結婚なんてしないからね?」
「その好きは、愛情じゃないだろう?」
「最初はね」
華琉は、嘘をつかない。
今の言ったいたことだって、結婚するときは友情としての好きだったはずだ。
俺だってそう。しかも友情というか、それよりも利害関係が一致しているからこそ出来たようなもの。
ふざけて結婚なんて、できるはずもないのだから。
「俺さ」
「ん?」
「俺、最終的にはだけど、華琉と結婚できてよかったよ」
別に、ネクストと冷みたいに特別に特別を重ねたような身分同士の結婚じゃなくてもいい。
確かに、結婚した事情は特別でも、今でこそ湧き出る愛情というのは凄い。
「私も。……今、最高に幸せだとおもうよ」
ベランダ。そのまま上を見れば、一面の星空が浮かんでいる。
そんな中、やっぱり好きな人と一緒にいられるというのは、やっぱり普通の人ではできないと思う。
「あ、明日テストだっけ」
「ああ。そうだけど」
「……問題まだ作ってない……」
はっ!?
いやいや、いったい何を考えているんだろうか。
冗談かと思って笑い飛ばそうともしたが、彼女の顔を見た瞬間それが嘘でも冗談でも何でもなく、事実であることを感じ取る。
……うわぁ。いったいどうしろっていうんだ。
「華琉の担当は、なんだっけ?」
「狙撃ぃ」
今にも泣きそうになっているところ申し訳ない。
「それ、実技テストでいいんじゃないか?」




