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蒼氷のゼニス  作者: 鶴琉世乃
第1部:第1章
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第08話「歓迎会1」

「ありがとね、なおったにゃん」


 次の日。

 魅烙みらくは、幾分かマシになった顔で俺に笑いかける。


「今日は無理厳禁。まあ、俺がそばにいるけど」

「そうやって言ってくれると、照れるにゃん?」


 ぽっ、と顔を赤らめる魅烙。その姿には、扇情さが少し消えているような気がする。

 しかし、その逆に出てきたのは可憐さだ。服装も何もかも、一昨日の痴女同然だったあれと変わらないはずなのに、今日はどこか弱々しさを感じる。

 と、零璃れいりが来るのを俺と魅烙で待っているんだが、魅烙はそわそわと落ち着いていなかった。


「強くて、優しいひとにゃ……」

「ん?」


 強くて優しい人、か。

 強いか、と問われれば俺は縦にも横にも首は振れないだろうし。

 優しい、というのも何か違う気がする。


「……昨日、もしかして、徹夜だったのにゃ?」

「そんなことはないけど」


 30分ごとに一回起きて、魅烙の体温は測っていたけど。

 俺はそう心の中でつぶやきつつ、魅烙の手を取った。


 ぼふっ、と頬を赤らめる魅烙。

 彼女の変わっていく頬の色を見ながら、自然と笑いをこぼしていた。


 人の反応というのは、本当にずっと見ていても飽きないものだな。

 俺はそんなことを思いながら、時間が来るのを待つ。


 ちなみに、あの後姉さんに会ったんだ、昨日。

 そして、俺は目標が分かった。

 姉さんが、「ゼニス」だったということで。


 俺の目標は、姉さんを倒すこと、になる。

 親父、元々知ってて絶対俺をここにいれただろ?



「こんにちはー」

「零璃、こんにちは」


 数十分後、零璃がドアをノックした。

 ドアを開けると、そこには白いドレスを身に纏った零璃の姿が。

 何度も見るが、その姿はやはり男とは思えない。


「あ、魅烙さんはもういたんだね」

「ん、にゃ」


 気恥ずかしそうに顔を背ける魅烙をみて、零璃は不思議そうに首を傾げた。

 そりゃあそうだ、昨日一度別れるまでは本当に活発な女子だった魅烙が、一日ほどたっていたら性格が変わっていた。

 普通は今までのギャップにやられることだろう。


 しかし、過剰に気恥ずかしそうなそぶりを見せているのは、魅烙が昨日のことと今日のことを思いだしているからだろうか。


「む、魅烙さんどうかしたの?」

「いや、まだ微熱があるから元気がないだけだと思うが」

「そっか」


 じゃあいこーと。零璃が目を細める。

 とても男とは思えない、長いまつげ。

 本当に彼が男なのか、疑ってしまうほど、そのドレスは似合っている。


 中性的、と初対面の時は考えていたが。

 今のところ、それどころではなく正直女性だ、と言ってしまっても俺は疑うことはなかっただろう。


「て、つなご?」

「はっ?」

「ほら、一緒に回ってくれるんでしょ?」


 魅烙がまっとうなかわいさを手に入れたと思ったら、零璃も同じようなものを手に入れていた。

 この二人、一体どうしたんだろう。


 戸惑いながら俺が零璃の方に目をやると、零璃はきゅるんとした目でこちらを俺を見つめている。

 身長の件もあり、俺のほうがかなり背は高いため何もしなくても零璃は上目遣いだ。

 くっそかわいい。

 女だったら迷わず好きになっていたのに、と思うほどに。


「今日は、普通に女の子を演じてみようかなって」

「……へえ。何か意図が?」

「ん? ほら、ネクサス君にべったりするから」


 なぜ!?










「ここまで特殊な両手に花状態は初めてだよ」

「んにゃ?」


 ひとまず、俺たち3人は歓迎会が行われる会場まできた。

 ここは天王子学園のなかではなく、そこから南に約500メートルほど行った場所に、今回の舞台の入り口がある。

 その名も【第1刃夙ハツトドーム】。



「広いな」

「にゃー」


 大きさは、世界最大級だとデータにはあるね。と零璃は解説をしてくれた。

 観客席だけでも7万人分の収容率に加えて、食堂やら施設が複合している場所なんだとか。


「天王子学園の校舎って、ここに集結させないんだな」

「んー、ここは必要に迫られて増設された施設らしいから。ほら、ここって」

「人工島だからにゃん、島も増設できるからにゃん」


 ちなみに、この人工島。国際的にはどこにも属していないんだと。

 どれだけこの学園ってややこしいんだ。

 ま、俺たちが気にしなくても学園生活を送れるらしい、というのがいいところか。


「んんん?」

「どうしたの、ネクサス君」


 零璃が疑問の顔を浮かべたが、俺は首を振った。

 ……おそらく、今みたものは見間違いだろう。










「歓迎パーティでは多少はしゃいでもいいが、決して羽目を外しすぎないように!」


 学年主任の烏導うどう先生は、そう言って解散、と呟いた。

 しかし、その声はすでに聞こえていないだろう。俺も口の形で何を言っているのか適当に確認しただけでぜんぜん聞こえない。


 スピーカーもほぼ意味がない。6万人以上の騒音は、ドーム内部を混沌状態までにたたき落とす。

 ただ、ふつうの状態であったとしても、何か緊張感が漂っているのは気のせいだろうか?


 この学園には序列順位が学年では1から2万、学園全体では1から6万まで明確に分けられている。

 俺たち新入生も、役所のデータからひとまずの順位は明日に発表されるはずだ。


「さ、いこっ」

「にゃんにゃー」


 歓迎会、といっても最初の数十分は自由時間、そこから何かあってまた自由時間といったタイムメニューらしい。

 とりあえず、今はこの二人と回るか。


 俺は魅烙と零璃を取り巻く視線を感じ取り、少し笑ってしまった。

 ほとんどが俺に対する嫉妬か、二人に対する劣情の視線か。

 おもしろすぎる。新入生は遠慮しているが、2年3年は数人、その感情を抑えようともしていない。


 楽しいねぇ楽しいねぇ!


「ネクサス君、怖い」

「怖いにゃー」


 怖い顔。と二人に言われ、俺は慌てて元の表情に顔を戻す。

 いや、それでも楽しい。

 その感情を、絶望に変えたいんだよなぁ。


 ……かなり悪役な性格をしているんだな、俺って。


「視線は気にしないのが一番だから、大丈夫だよ」


 零璃、そりゃあお前男だからな。

 零璃はふつうのドレス姿だから、まだ露出も少なくて問題は小さいことなんだろうけど、問題は魅烙だ。


「ん、いつもこんな感じだから、気にしないにゃん」


 俺はうなずいて、彼女に了解の意を示した。

 今は何もしなくても、なんとかなるだろう。


 何かが怒ったら、そのときにやればなんとかなるか。

 取りあえず、今のところは。


 ……何か誰も動かないなって思ったら、少し離れたところで姉さんがそいつらを、指すような視線で見つめていた。

 学園最強ゼニスの影響力、やはり段違いと言ったところか。


「あれ、誰?」

「可愛いせんぱいにゃー」


 その幼女同然の姿にキャッキャしている二人。

 ……その幼女が、学園最強だとも知らずに、平和である。


 と、一人の男が姉さんの方に一歩進み出て、わざとらしくため息を吐いた。


「ちっ、【氷姫ヒョウキ】か」

「新入生に肩入れするつもりはないけど、こういう時は私の前ではしてほしくないなー」


 語尾が伸びて、やや舌足らずな口調のせいでまったく怖くないように思えるが、その姿をみた瞬間、男の表情は凍った。

 姉さんの周りに、表情どころかドーム全体を凍り付かせそうなほど、すさまじい冷気が漂っていたから。


 その現象に、新入生は悲鳴をあげて逃げまどう。


「【氷姫】、抑えろ」

「……はぁい」


 と、昨日俺の肩を掴んだ男……ではなく、その隣にいた別の男が姉さんを手で制す。

 ふむ、昨日は全く男の容姿なんて気にしてなかったが。


 火炎のように伸びた紅い髪の毛に、筋肉の乗った身体。

 筋肉の固まりではないが、熱血そうだなといったイメージ。


 服装は赤と黒のジャケットに、紺色のジーンズ。

 実に男らしい人だな。


「ちっ……!」


 進みでたはずの男は舌打ちをすると、しんと静まり返ったドームから逃げるようにして去っていった。

 この笑えるところは、ドームへの入り口が遠すぎてほぼ公開処刑になっているところだろう。


 男はふぅ、とため息を吐くと。俺たちのところに来て手を差し出す。


「天王子序列コード007:【炎星騎エンセイキ】。関帝かんてい赫良かくらだ、よろしく」

「てことは、零璃の……」


 零璃が、ドレスの乱れを気にしないまま赫良さんに飛びついた。







「お姉ちゃん!」


「「は!?」」

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