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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第2章
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第76話 「剣術ディスクリプション」

「母上から言われたから、訓練を始めようと思った、けど」


 放課後。

 ここは、同盟アライアンス楽園エーリュシオン】の予備多目的室だ。


 協定状態にある【楽園エーリュシオン】と【ソキウス】。

 現在個別の拠点を持たない【ソキウス】の為に1ヶ月だけ、使う許しを得た場所である。


 今日は、主に先週俺の母親が、神御裂かんみざき家の当主に頼んでいた【剣術の向上】の為にここを借りているんだが……。

 神御裂 こうは、ぺたんと床に座り込むと澪雫みおの方をむいた。


「霧氷さんは、ないのね」

「……師範に、魔剣を返してしまい、今は手持ちがないのです」


 澪雫が紅に理由を説明する。

 その説明に紅と、彼女の双子の妹であるそうは納得したようにうなずき、何かを思い出したようにぽんと自分の手を叩いた。


「今回は座学、しよ」

「えっ?」

「座学。……神御裂と涼野の両方が、どんなふうに違うのか知る必要が、ある」


 双子の姉、紅がそう言い放つと、そのときを見計らっていたかのように妹の方の蒼がテーブルと椅子を持ってきていた。

 それにしても、蒼のほう。


 外見はただの華奢な美少女だというのに、椅子4人分と鉄パイプの机を道具も使わずに片手ずつで全部持ってきていた。

 どんな体をしているんだろう。能力者は確かに、華奢で力持ちという人も多いがそれでも神鳴かみなり陸駆りくくらいにはガチムチになる。


「ちょうど蒼が用意してくれてるし、座ろ」

「お、おう」


 向かい合うように俺と澪雫、紅と蒼がそれぞれ座って。

 なんだか気まずい感じになる……こともなく、話し始める紅。


「まず、歴史から。神御裂流は20年前に改名した流派で、元々は小山家の流派。それに対して涼野流は20年前に出来上がった流派」

「うん、うん」


 この話は、親からよく聞いていた。

 そもそも母親と神御裂家の現当主が同じ学年で、友人同士っていうこともあってなんやかんや。


「まあ、ちなみにちょっとつっこんだ所を言えば、私たちのお母様はネクスト・アルカディアさんが大好きで取り合っていたそうだよ」

「そこは言わなくてよくないか?」


 父親は、決して学園の中では少なくとも、「愛している人」は俺の母親だけだったという。

 だけれども、それでも贔屓しているわけではないが「英雄は色を好む」とかなんとか、とんでも無い数の少女が父親を好きだったそうな。


「でも、こういうの楽しいよね」

「……何を期待してるんだろう?」

「さぁ?」


 蒼は、どうもこういう話に興味があるようだ。

 多分、俺が知らないそういう関係のこと……つまり色恋沙汰も知っているんだろうなと。


「たとえば、ほかに華琉さんとか、あと理事長もそうだよね」

「……話を進めてくれないか」


 あまり聞きたくない話を聞いてしまった。

 第三者からはおもしろいのかもしれないが、って蒼も他人事じゃないような気がするんだが。


 こほん、と二人同時に咳払いをした澪雫と紅。

 その様子を見て、蒼も状況を理解したらしく押し黙った。


「何か知りたいこと、ある?」

「いや、え? 俺が質問するべきなのか、ここ」


 説明を始めるって言い始めたのはそっちではなかったのか。

 それとも、俺がおかしいのか。


 紅にその旨を伝えると、目の前の美少女は肩をすくめ「いざすると、頭から台本が吹き飛ぶ」と恥ずかしそうに顔を隠す。

 その仕草に俺が見とれること数秒、澪雫に恐ろしいほどの笑顔を向けられること数秒。


「澪雫さん、嫉妬?」

「いえ?」


 蒼に恐々として質問されるが、澪雫の顔は元の顔に戻っており何ともなかったようだ。

 とはいえ、完全に蒼が怯えきっているし、澪雫は笑顔が心なしか怖いし、紅は何を言おうか必死でそんなことには気づいていない。


「……座学は苦手」

「お、おお」


 でも、神御裂流剣術を習うとしたら目の前にいる二人が名実ともにいちばん詳しいんだよなぁ。


「そもそも、ネクサス君がどこまでの腕なのか、分からない」

「少なくとも、澪雫よりは確実に弱い」

「第1回公式試合とか、あの時の決闘とか活躍してて、も?」

「強い弱いの基準がどこなのか分からないから何ともいえないが、上の中くらいだと思う」


 決して、この学園の最強クラスには突っ込めないがだからといって4桁に負けるような人ではないはず。

 そう俺は考えた上で、「上の中」と自分を評価したんだが。


「さすがに謙遜、しすぎ」

「うん、私もそう思う」

「同感です」


 少女3人に否定され、俺はその意味が理解できず首を傾げる俺。


「正直、私が勝てたのは私が特化しすぎているというか、ほかに何も出来ないからだと思うのですよ」

「ん?」

「能力がほぼ使えませんから」


 簡単に説明をしてくれる彼女の顔は、どこか負の感情もなく妙に誇らしげだ。

 あー、だから能力の方向が開花しないんだなって。


「私たちは、どっちも使える」

「それが通常な?」


 そっちには頬を膨らませる澪雫。

 いや、そんな顔されても正直どうかなって感じがするがどうなんだろうか。


 いい、いい。これからちゃんと俺が導いてやらなければ。


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