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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第2章
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第73話 「休日初デート6」

「あら、もう3時なのですね」

「武器店って基本的に時間泥棒だからな」


 彼女のつぶやきに、俺が何気なく返答をすると少女は「まったくそうですね」とほほえんだ。

 思ったよりも時間が掛かっていたらしい。

 日本刀を見て、朱玄さんに点検してもらって、また日本刀をみただけなのに、時というのは速く流れるものだ。


「ん。これは、きっと私がネクサス君と一緒にいるからですね」

「え?」

「……ネクサス君と一緒に居ることが楽しいから……体感時間が、短く感じるんだと思います」


 そういって、澪雫みおは握る手の強さをほんの少し強めた。

 相変わらず人通りの多いところを歩いているから、彼女という存在は人に注目され続けているけれど。


 こうやって、恥ずかしがって顔を赤らめながらも言ってくれるのは、本当に嬉しいものだ。

 好きな人に言われれば尚更。


「もうすこしこの辺を歩くか、先に天王子学園に戻って俺の部屋にくるかどっちがいい?」

「そうですね……、この辺を歩いてから……夕方に天王子学園近くのスーパーによって、夜は私が作りましょう」

「本当に?」


 澪雫が作ってくれる?


 いやぁ楽しみだな、ていうか俺ちょっと彼女に恵まれすぎているような気がする。

 母親が「大切にしなかったら微塵切りにする」と宣言していた意味が分かった。


 現世に舞い降りた天使、といえば痛々しいと言われそうだが実際そうなんだから。


「ちょっと道場に立ち寄りたいのですが、よろしいです?」

「いいけど、……大丈夫、なのか?」

「はい。……私を快く思っていない人は、この前師範が厳重注意を与えました」


 厳重忠告。ということは最終警告でもある。

 母親はその辺をしっかりしている、次何かあれば、間違いなく彼女達は抹消される。

 いろいろな意味で。


「見に行っても、いいです?」

「澪雫が言うのなら、俺は反対しないけれども」


 少し心配なんだよな、やっぱり。








「澪雫さんだ! おかえりなさい!」


 『涼野流』は、道場を持っている。

 本部である、今俺と澪雫のいる場所、本部道場は東京の中心部から少々離れている、会館のような場所だった。


 入り口にも、中の時計などにも流紋をモチーフにしたものがある。

 デザインはいいと思うよ、うん。

 でもさすがに飾りすぎではないかなぁ!?


挿絵(By みてみん)


 受付の女の人に会釈され、今俺たちの前にいる幼女は澪雫をきらきらとした目で見つめていた。

 ……小学生前半くらいの年齢だろうか、俺にはあまり分からないが。


 とにかく、その人は澪雫を見つけたと思うとそのまま、彼女の手を引っ張って道場の方へ走っていく。

 邪険に振り払うことも出来ず、困った顔をしながら澪雫は行ってしまった。


 ついて行くべき何だろうが、俺は一度道場の中を見回す。

 ここにくるのは、数年ぶりだろうか。

 母親につれられて、一度だけここの道場にいる同年代の人と手合わせをしたことがある。


 結果は、当然俺のぼろ負けだったのだが。


「もしかして、あの時の人が」


 あの時の女の子が、俺の記憶が間違っていなければ澪雫だったはずだ。

 ……なるほどね、結構前から俺は澪雫を知っていたわけだ。





 道場の中では、澪雫が小学生~中学生くらいの人に囲まれていた。

 一番弟子、というのはやはり注目の的になるんだな。


「この人は?」


 その中の一人が、近づいてきた俺にあからさまな警戒を見せた。

 鞘をカチリ、と鳴らしてこちらをにらみつけるのは、それが例え中学生ほどの背丈しかなくとも、その剣が練習用のものであっても怖いものだ。

 この道場に、男は殆どいない。

 受付から何から、男の姿は見あたらないのだ。


 さて、この状況で澪雫は彼女達にどう説明するか。


「ええと、私の彼氏で師範の息子です」


 さらっとそう答えた彼女は、呆気にとられてポカンとしている少女たちをすり抜け、こちらに歩いてくる。

 道場に入ったからか、彼女の表情は思った以上に引き締まり、緩んだ顔とは別の、むしろそれとは別格の凛々しさを身体に纏わせていた。


「ということは、ネクサス・アルカディアさんということに……」

「そうですね」


 迷いない、その言いように少女たちは面食らったのか何もいえずにいた。

 澪雫はこちらを向くと、少しの間考えて手を叩いた。


「ネクサス君、手合わせをお願いできませんか?」

「は!?」


 演習、演習、か。

 剣の腕がからっきしな俺は、目の前にいるこの少女に無様な負け様をさらすことしかできないかもしれない。


「剣使えないぞ俺は」

「ネクサス君はどんな手段を使ってもいいですよ。どうですか?」


 本当にどんな手段を使ってもいいんだろうか。

 いや、奥の手は絶対にこんなところで見せてはいけない。

 能力を使ってもいいと澪雫は言っているし、ここはそのハンデに甘えるとしよう。


「すみません、誰か審判が出来る方をお願いします」


 澪雫の指示に、一人の少女がダッシュで道場から出て行く。

 道場に出るとき、入るときに礼をするなんていう作法的なものは、この流派にはない。


 代わりに、この流派には……。

 『意志・感情の明確な力』というものを、教え込まれる。


 簡単に言えば、よく映画とかである『愛は勝つ』とかそういうことだ。

 土壇場での能力戦闘なんて、本当にそんな物だから恐ろしい。


 俺の父親は、『絆に干渉する人たちへの憎しみ』で力を発揮してきたと自分で言っているし、母親は決して明言しないが『負の感情をも越える愛情』で父親を包んできた。

 だからこそ、両親は数十年経っているのにも関わらず愛情が冷める気配を見せない。


「連れてきました」

「師範!?」


 驚くべきか、どうか。

 道場に入ってきたのは、俺の母親である。


 噂をすれば、なんとやらというわけかな。


「日本から出る前に、見に来た方がいいとおもって。……そうしたら澪雫ちゃんとネクサスがいるんだもの」


 ……うーん。

 贔屓目に見ることもなく、その声は20前半のものだし容姿も若い。

 小さい頃、何も知らない子に「お母さんはいないの?」って言われたことが何回あったやら。

 ……どうみても、俺の姉くらいなんだよなぁ……。


「父さんは?」

「んー、今天王子学園に用があるって行っちゃったね。……多分雨海みうさんのところだね!」


 理事長のところね。なるほど。


 と、ここで澪雫が母親に説明し、審判を頼むことになった。

 母親はいたずらっぽく片目を瞑って了解し、ふぅと息を吐く。


「10年ぶりの再戦だね。前回は澪雫ちゃんの圧勝だったかな」

「……ああ、あのときの」


 澪雫もやっと思い出してくれたようだ。

 ……彼女の顔が厳しい物に変わり、こちらを見つめる。


 距離をとって、俺は手に意識を集中。

 そこから、無数の楯を能力で俺の前に展開した。


「……ネクサス、本気?」

「本気」


 どんなことをしてもいいって、澪雫は言ったからな。


突然のバトル。

……この章、日常だけにしようと思ったんですけれど、やっぱりバトルも入れた方がいいんですかね?

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