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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第2章
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第70話 「休日初デート3」

「とても美味しかったです」

「普段は、こういうの食べないのか?」

「ええ、身体の健康に気をつけていないと、剣なんて振っていられませんから」


 ……なるほど、すぐに理解できる。

 澪雫みおは、口を拭くと手を合わせて静かに「ごちそうさまでした」とつぶやいた。


 そして、こちらがまだ食べ終わっていないのをみて指さしたのは、俺が少々残していたフライドポテトである。


「いただいてもいいです?」

「ん、どうぞ」

「ありがとうございます」


 と、やっぱりまだ食べたりないのかそれを摘んで嘱する。

 澪雫って、いったいどのくらい食べるんだろうか。

 注文した料というのは、決して多くはない。

 多くはないんだが、どうも食べて満足したという顔はしていないのだ。


「今日は、少し自分に甘えるのです」

「ん?」

「この休日は、剣を振りませんからね」


 剣を振らない、というのはあくまでも鍛錬をしないという意味なんだろう。

 もちろん、なにか緊急時のことがあれば彼女は容赦なく刀を使うはずだ。

 前回の公式試合では彼女の強さを確認できなかったが、敵にするとなかなか厄介な相手だということくらいは見なくても理解できる。


「今度、模擬戦しませんか?」


 澪雫から、そんな言葉が発せられた。

 はっとして彼女の顔を見ると、目の前にいた少女は戦いを楽しむような顔でこちらを見つめている。


「模擬戦?」

「はい。私は剣で、ネクサス君は……何を使ってもいいです」


 こちらにあきらかなハンデを与えている。

 ということは、それだけ剣の腕に自信があるということだ。


「能力の方は、もうあきらめたのか?」

「……はい」


 申し訳なさそうに、しかし決意は固く。

 少女は、頷くと「でも」と言葉を続けた。


「でも、いつかは人並みでなくてもいいので、剣に応用できる程度には教えてくれますか?」

「……俺に言ってるのか?」

「はい」


 俺も、苦手なんだよなぁ。

 能力、というのは才能が物を言うんだ、それを努力で補って仮にこの学園では上位に入ってたとしても。

 それ以上には、才能の壁というのが存在する。


 特に同盟アライアンス楽園エーリュシオン】。

 俺の姉である氷羅ひょうらに、関帝かんてい家の長女である関帝赫良かくら

 【雷神】の息子である神鳴かみなり陸駆りく

 幼なじみでもある戦闘狂、ヴァロッサ・デスロスト。


 そして、直接的には王牙おうがさんの弟弟子に当たる八龍やりゅう鎌斬れんざん


 全員、学園どころかこの年にして世界でも注目されている人たちだ。

 数々の大会で優勝し、恐らく5人の優勝経験は200を越えるだろうとされるそんな集団。

 そこにたどり着くためには、俺はまだまだ力不足である。


「もっと強くなって、ネクサス君の負担を減らさないといけませんね」

「抱え込むなよ」

「大丈夫です」


 心の強い人は……いや。

 強がっている人こそ、実は中身が脆いのだ。

 でも、俺は少しばかり無理をしないとな。


 限界を超える。そもそも限界が存在しないようにしなければならないから。


「ネクサス君も、無理は禁物ですからね」

「……心を読みとったのか?」

「まだお付き合いして少ししか経っておりませんが、ネクサス君のことはよく見ていますからね」


 よくもまあ、人が照れるようなことを真顔で言えるものだ。

 いや、少々笑っていたけれども、しかしそれでも彼女の顔は相変わらず美しい。


 もう何百回、何千回と見ているはずなのに、思わず彼女を見つめてしまう程度には魅力があるということか。


「あー」

「どうしたんですか」

「……一日中見つめていたくなるなぁって思ってさ」


 次は、澪雫が顔を赤らめる番だった。

 俺は日本のアニメ文化というのを、表面的ながら知っている。

 父親が日本好きすぎておかしいことになっているのだから、それも当たり前と言うべきか。


 しかし、その。

 深夜に放送されているアニメにいる、美少女キャラをそのまま現実に持ってきたような容姿。

 それのみならず、性格までもぐうの声もでないほど聖人。


 理想の彼女ではなかろうか。完璧すぎて少々違和感を覚えるほどだが。

 これなら逆に誰ともつきあっていなくてよかったかもしれない。

 俺が最高の彼氏だ、とは思わないが彼女の性格なら簡単にだまされそうではある。


「て、照れるじゃないですか」

「……うん、そんなところも愛でたくなる」


 思わず、彼女を誉める言葉が口をついて出てしまう。


 澪雫を眺めすぎると、その透き通った目に本当に吸い込まれてしまいそうだ。


 俺は頭を振り、立ち上がった。


「次、どこ行く?」







「東京の中心部は俺も分からないな」

「あー、なんだかんだ日本にきたばっかりですもんね」


 天王子学園にほとんどいたし、それ以降は来ていないせいで東京の町並みは全く分からない。

 俺が日本に来る前、町の様子は大都市にも関わらず高層ビルは建っていない。

 属性能力発祥の地。そうよばれているのが俺の生まれ、育った場所である。


「私も、中心部はそんなに来たことがないんです」

「友人と遊んだりは?」

「移住区の隣に、巨大なショッピングモールがあるのでそこに行っていました。……残念ながら、友人もそんなに多くなくて」

「うん、そうだと思ってた」


 どういう意味ですかー! と少々ムキになった彼女に。

 俺は首を振って「俺も一緒だから」と告げる。


「俺は、能力が幼少期使えなかったから、ヴァロッサと魅烙みらくくらいしかいなくて」

「……あー、なんかごめんなさい」

「謝らなくていいぞ。……今、こうして皆と出会えたんだから」

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