第69話 「休日初デート2」
「に、似合っていますか?」
顔を真っ赤にして、店員にコーディネートされた服を身にまとい。
こちらをむく少女、澪雫の姿は背後に桜でも咲いたのかと思ってしまう程度には美しい。
恥ずかしいのか? と聞けば、こういう服を着たことがないのだという。
確かに、フリルのついた服装を身に纏っている澪雫を見るのは初めてだ。
しかし……。
「驚くほど似合ってるな」
耳まで朱に染めた澪雫の、長い髪の毛をそっと指で梳いてやれば、親指が頬にふれた場所から彼女の顔色はさらに赤くなった。
店員が澪雫のことを「お人形さんみたい」と言っているが、こんなに愛着の沸いてくる人形はそんなに存在しない。
「んー。この服全部ください」
「ふぇっ!?」
このまま着ていくので、とその場で金を払い終わった後。
澪雫は、放心したような顔でこちらを見つめていた。
「ん? 言ってなかった?」
「えっ、でも。でも……」
今回のデートは全部俺持ちだから
美しい花は飾ってやらないと。
ま、明言したら彼女は絶対に何も買わなくなるため、言うのは控えよう。
「細かいことは気にするな。さて、次の店行くぞ」
道を歩いていたら、すぐに分かる。
澪雫と並んで歩くと、すれ違って彼女をもう一目見ようと男がこぞって振り返るのだ。
いやな気持ちはしないが、特に得意げな気持ちにもならない。
「なんだか、視線が集まってるような気がします」
「……自意識過剰?」
「じゃなくて、本当にですよぅ」
心なしか、語尾も弱い。
かなりしおらしくなっているし、その顔色が元に戻ることは恐らくないだろう。
「まー、確かに可愛いからな」
「……そんなことないですもん」
あそこから出発した頃なら、「可愛い」ではなく「綺麗」という表現を使っただろうが、今の彼女は可憐という表現が一番あっている。
咲き始めた桜の花のように、小さい可愛らしさが咲き乱れているようだ。
だからこそ、俺も誇らしくなってくる。
そして、彼女をさらに愛しく思えてきてしまうのだ。
「何かあれば、守ってくれます?」
「ん、命にかけて」
その言葉を聞いて、彼女の顔が少々こわばったのは気のせいだろうか。
「アルカディア家の言葉に、嘘はないと聞きます」
「ないよ。綺麗事言っても仕方ないし」
「となると、今のも?」
「ああ、澪雫の命を危険にさらすような人が居るなら、俺が殺す」
かなり過激なものいいかもしれない。
でも、それが出来るからこそ俺は口に出した。
誰かの為に命をなげうつなら、死ぬとしてもそれが一番美しい。
それを俺は父親から、能力の訓練を受ける度に聞いた。
実際にそれをしてきた親父だからこそ、信憑性がもっとも高くて決して聞かないと言うことはなかった。
「そんなに気張らなくとも。大丈夫ですよ」
「これを言うのは早いから止めておく」
「ん?」
「澪雫が、ちゃんと将来のことを考えてからな」
アルカディア家の教訓というのは、戦乱を生き抜いてきたからこそ発言力が高い。
どれもふつうの人が「綺麗事」としか評価しないようなもの、重すぎる言葉たちを唯一今まで実行してきたからこそ伝えられる言葉を、親から子へ伝わる。
そしてそれを達成し、次の世代へ向かうのだ。
「大丈夫ですよ。自分の身は自分で守れます」
「この言葉、親父が聞いたら絶対に『デジャヴ』っていうんだろうな」
うーん、この。
やっぱり、俺の母親と澪雫って性格がかなりに通っているんだよな。
「え、ファーストフード店にも来たことがない?」
「いえ、数回は来たことがありますが、ほとんど」
数回?
もしかして、片手で数えられる数字とか言わないよな?
……いや、この様子ならあり得るか。
「いやだったら、別のところにいってもかまわないけれど」
「いえ、大丈夫ですよー」
ならいいか。店内に入ろう。
思った以上にお嬢様だな。どうしよう。
×お嬢様 ○剣術しか頭になかった




