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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第2章
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第67話 「早朝ブレイクアップ」

「おはよう、澪雫みお


 そろそろ解散、ということであわただしいアルカディア家の別荘早朝。

 八神やがみ家はすでに昨日のうちに帰っており、他の人たちも一度実家に帰るということで一人微妙な顔をしていた澪雫みおを見つけた俺は、とりあえず彼女をそばに置いておくことにした。


「みなさん、実家帰りなんですね」

「ちょうどいいころあいだしな。今回は三連休だし、両親もどこかに遊びに行くんだろう」


 澪雫はどうする? と聞いてみたのだが、彼女は実家には帰らないようだ。


「夏には一度帰るといっているので。今は大丈夫ですよ」

「そうか」


 零璃れいり刑道けいちも実家に帰ったし、姉さんはこの数日、関帝かんてい家でご厄介になるらしい。

 このまま天王子学園のほうに帰るのも考えたが、それも面白みがないだろう。


「澪雫、デートいくか?」

「!?」


 突然の誘いに、驚きからか目を見開く少女、霧氷むひょう澪雫。

 しかし、数秒もすると驚愕の顔は歓喜の顔に代わり、こくこくと彼女はうなずいた。


「なーネクサス、この数日はどうするんだ?」


 ちょうど、父親がこちらに顔を出してきた。

 ということで、今日の予定を話してどうするか相談をする。


「ここを使う、のはさすがに広すぎるだろうからな。……金はやるから友人が経営しているホテルに泊まったらどうだ?」


 世間的に高校1年生の男女が同じホテルに泊まるのはどうなのか、という疑問はあると思うが俺の両親には効かない。

 実際、両親は付き合い始めて1日目には何もしていないとはいえ朝帰りをやっていたくらいなのだから、何も言えないのだ。


 つくづく、運命によって不思議と引き寄せられたという言葉でしか二人の関係を説明することができないのだから困りものだろう。


「霧氷澪雫っていったかな」

「はいっ」

「……俺たちの息子をよろしく頼む。……将来のことも見据えているというのなら、アルカディア家は君を拒んだりはしない」


 その言葉は、一見大仰に聞こえるかもしれない。

 それでも、澪雫はよくわかっているだろう。

 俺の母親が、どんな人に嫁いだのか一番よく知っている人なんだから。


 澪雫は、胸に手を当ててその言葉をゆっくりと咀嚼するように理解しようとしたのだろう。

 そして、満面の笑みを浮かべてうなずいた。


 少女の姿を見据え、今世の英雄は満足そうに頷くと踵を返した。

 そんな父親と入れ違いになるように部屋に入ってきたのは現代【剣聖】である母親。


「ネクストがかなり満足そうな顔をしたけれど、どうかしたの?」

「……」


 澪雫が何もしなくても、何も言わなくても。

 母親は、彼女の顔の色でその意味を理解したようだ。


「入学当時は、あんなに顔をゆがませてたのに。……うん、いい顔になったね」


 そして俺のほうを見て、一言。


「澪雫ちゃんを大切にしなかったら、微塵切りにするから」

「はいぃ!?」


 冗談めかして言っているが、本気の目だなそれは。

 微塵切りというのは、体の意味ではなく精神のいみだろう。


 確か、母さんが持っている剣には精神を切り刻む剣があるという。

 めったなことでは使わないらしいが、恐らくそれだろう。


「澪雫ちゃんは、もしひどいことされたら遠慮なく言ってね」

「にゃふふ」


 澪雫はというと、顔が緩みきって彼女かどうかすでに怪しい。

 あんなに凛々しかった少女も、言葉一つ雰囲気一つでここまで変わるのかと思い知らされる。




「じゃ、戸締りは私たちがしておくから、先に出かけておいで」


 両親に見送られ、とりあえず出発。

 荷物は最初からほぼなかったし、心も清々しい。


 違うところといえば、彼女の顔が少々上気した雰囲気だということ。

 それにしても美しい。やっぱり、彼女と付き合えてよかった。


「ネクサス君……」

「ん?」

「えっと、その」


 と言いながら、少女は手をひっこめたりちょっと出したり。

 そのくらいの意味は分かってるし、いちいち鈍感を気取る必要もない。


「手、つなごうか」

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