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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第2章
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第64話 「凱旋ディナータイム5」

50,000PVまでもう少しですね。


これからもよろしくお願いいたします。



 俺の出身国では、一夫多妻制が許容されている。

 理由は簡単、能力者を増やすためだ。


 特に20年前の戦争のせいで、出身国での能力者は数をかなり多く減らしてしまった。

 そのために、俺は。


 ……いや、これは義務なのだから。


「ネクサス君? 大丈夫ですか?」


 我に返ると、目の前にいたのは不安げな顔をしてこちらを見つめる銀髪茶眼の美少女だった。

 雪のようで、氷のようで。

 冷たくて、それでも心地よく感じられる、涼風のような少女。


 名前は、霧氷むひょう澪雫みお

 母親の一番弟子で、剣の達人でもある。


「ちょっと、どこ見てるんです? 本当に、大丈夫なんですか……?」


 上目づかいで不安そうにこちらを見つめる少女は、俺の意識を元の世界に戻すどころか逆に。

 その瞳の奥、幻想に誘っているようだった。


「……やばい」

「ん?」

「理性を失いそう」


 今ここで、理性をかなぐり捨てて彼女に襲い掛かったらどうなるだろうか、

 いや、考えるのはよそう。こんなことをするために二人になったわけじゃない。


「ここではだめです」

「……はっ」


 意味深な言葉は残されたが、これはここは気にしない方がいいだろうか。

 気にしたら、この後がたぶんいろいろと面倒なことになる気がする。


「さて、戻るか」

「そうですね」


 夜はまだまだ始まったばかりだし、ディナーパーティも同様に始まったばかりだ。

 そもそも、この夜は終わるのだろうか。


「あ、そうでした」

「ん?」


 澪雫がすぐに立ち止ったため、一瞬遅れて俺も足を止める。

 そうしながら後ろを振り向くと、彼女は天使のような笑顔でこちらを見つめていたのだった。


「不束者ですが、これからよろしくお願いいたします」


 この瞬間。

 俺は、約1週間も適当に答えをぼかしていたことを、後悔した。


 彼女は俺のどこに惹かれたんだろう。

 最初の時は、印象最悪だったはずなのに。



 ……そういうことが、すべていっしょくたになってどうでもよくなる程度には。

 彼女の笑顔というものは、輝いていたし、煌めいていたのだ。









「むぅぅ」


 俺と澪雫が、手をつなぎながら戻ると入口にいたのは俺たちを不満げな顔で、なおかつ頬を膨らませた魅烙みらくだった。


「……むぅぅぅ」

「……どうしたんですか、魅烙ちゃん」


 少々たじろいだ澪雫は、魅烙の視線の先を感じて俺と握っている手を離そうとする。

 離すわけなかろう。何考えてるんだ澪雫は。


「……いいなぁ」


 ぼそっ、とつぶやいた魅烙の声は、俺たち二人の耳にきちんと届いていたし、俺の中では特に。

 ズドンと、何か重いものがのしかかるような気がした。


「ちょっと、私は席を外しますね」


 と、澪雫が俺を見ながら手を離し、中に入っていく。

 彼女なりに、気を使ってくれているのだろうな。


 ……思った以上に、澪雫っていうのはいい子だ。

 俺では、もったいないくらいに。


「なんで、澪雫ちゃんを選んだの?」

「守りたいから」

「……なんだか、昔と全く変わらないこと言ってる」


 魅烙の声は少々震えていたし、今何か刺激を与えていたら、確実に泣き出すだろうという程度まではちゃんと理解できていた。

 それでも、まだ。


 俺は、魅烙を嫌いになったわけでもないし、むしろ好きだから。

 初めて会った時から、本当に一途に俺のことを向いてくれた人だ。

 俺が、それに気づかないわけはない。俺は小説の鈍感系主人公ではない。


「魅烙は、王牙おうがさんに国の事を詳しく聞いたか?」

「……パパは、あまり」

「なら、聞いた方がいいな」


 俺の笑顔に、魅烙は何かを悟ったようだ。

 ごしごしと、その目を擦って目じりまで出かけていた涙をぬぐうと、会場の中に駆けていく。


 さて、俺も澪雫を探そう。


「あれ、ネクサス?」


 と、その前にヴァロッサの相手をしなければ、と振り返りながら、俺は思った。








「へぇぇ、霧氷澪雫さんとねえー」


 にやにや、とこちらを見つめるヴァロッサを無視しつつ、俺はあっと思い出したように話を切り出す。


「ヴァロッサの両親にも挨拶に行かないと」

「あー、今君の親と喋ってるから後でだね」


 長くなりそうとかうんたらかんたら、この姉貴分のようで姉貴分でないなんだか微妙な立ち位置にいる一歳年上の上級生は、俺をみることもなくべらべらと喋り続ける。

 別に俺は構わないんだけれども、この光景を澪雫に見られたらまた面倒なことになるんだろうか。

 いや、アルカディア家とデスロスト家の関係は澪雫だったら知っているから、特に何もならないか。


「まあ、私はネクサスがどんな女の子と付き合おうが、関係はないけれど」

「いうと思った」

「でも、絶対に何人と付き合うとしても、何人と結婚するとしても責任はとるんだよ?」

「それもいうと思った」


 そのくらい、わかってる。

 ……うん、わかっているんだが。

 分かっていてもできなかったりするから、その辺のことはちゃんと考えるべきだろうか。


「ま、私も【ソキウス】に移転したいなぁって思ってる」

「ほぉ、そりゃあなんで?」

「同級生が、一人くらいは必要でしょう、さすがに」


 他愛ない話をしながら、ゆっくりと時間を過ごす。

 平和なようで、少々殺伐とした雰囲気を常に醸し出している天王寺学園とは違い、完全なる平和な場所。


 ゆっくり過ごしても、永遠に続くと思わせるだけの魅力が、ここにあるから。


 ……今は、ちゃんとこの場を楽しむべきだな。

アルファポリスの青春大賞にエントリーしております。

応援よろしくお願いいたします。


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