第63話 「凱旋ディナータイム4」
「澪雫ちゃん、結局来たんだねっ。よかった」
注意していただきたい。これ、40近い俺の母親のセリフである。
どうやったらこうなるのか、俺はよくわからないけれど。
それにしても、能力者のアンチエイジングってすごいな。
「ネクサスはどう?」
「……澪雫って、本当に可愛いよなぁ」
母親に聞かれ、てっきり澪雫のことを聞いているのかと思い俺が何気なくつぶやくと、隣で先ほどまで真っ青だった澪雫の顔は、次に真っ赤になっていた。
その様子を見て、俺の両親は首をかしげる。
でも、意味深な目線をこちらに向けてくるあたり、わかっているものだと思われる。
「零璃君も、刑道君も、紅ちゃんと蒼ちゃんも、ネクサスをよろしくね」
ちゃんとメンバー全員を把握している母親。
いったいどうなってるの……。
「自由に、とりあえず適当に楽しんで行ってくれ」
そして親父は適当。放任主義かと思われたがこれが違うんだよなぁ。
本当に、もう。
「澪雫、疲れた?」
ここに到着して1時間ほどたっただろうか。
神御裂家の現当主に挨拶して、学園長に挨拶して。
もちろん朱玄さんにも挨拶をして、そのあとは自由行動ということになったんだが。
今、俺と澪雫は中心から少し離れたテラスで、ベンチに座っていた。
「いえ、大丈夫です」
「そうか?」
どうみても顔は引き攣っているし、大丈夫に見えないから俺はそういったんだが、どうも大丈夫って言っていてもその顔は。
「……思ったよりも、緊張はしましたね」
「全然大丈夫じゃないな、まったく」
彼女の肩を抱くようにして俺のほうに引き寄せると、澪雫は戸惑ったような顔でこちらを見つめる。
「俺は、冗談で言ったつもりはないけど」
あれは俺が悪いのかもしれない。
確かに、さらっと言い過ぎた節はあるし、それは俺もちゃんと自覚していた。
でも、そのあとのセリフで俺はちゃんと言ったはずだし、なぁ。
「あれって、冗談じゃ、なかったんですか……?」
「あれが冗談だったら、俺に何のメリットがあるっていうんだよ」
冗談だったら、俺が「女たらし」ということが固定観念化されるだけで、特に何もないと思うんだが。
いや、確かに俺が悪いな。
何の……なんて言ったっけ? フラグ? を立てずにいきなりそんなことを言えばもちろん相手は驚くだろうし、まだであって数週間しかたっていない。
ここだけを考えると、やっぱりというべきかなんというべきか。
「……私、重いですよ?」
「あー、気にしないから」
なんだか、この人……。
絶対今の言葉を親父に聞かせたら「冷にそっくりだな」とかいうんだろうか。
俺は、完全にこっちに身体を預けてきている澪雫を見つめながら、僅かな達成感に満たされていた。
それが俺の何を示しているのかはわからないし、今わかる必要もないだろう。
空を見上げれば、そこは黒に限りなく近い藍色の広がる夜空。
星は出ていないけど、月はたった今雲間からわずかにその輪郭をのぞかせる。
「……何を見ているんです?」
「空だよ」
「空?」
つられて上を向く澪雫は、それを眺めるとぱちぱちと瞬きをして、不意に顔を伏せた。
「どうした?」
「いえ……きれいですね」
どうも、澪雫は自分の胸の内を明かさない人らしい。
……それにしても、胸柔らかいな。
俺が引き寄せてるから半分故意なんだけど、澪雫が何も言わないからいいか。
剣を振るとき、邪魔なんじゃないか?
「私は、信じていますから」
「ん?」
「……ネクサス君が、体目的じゃないって、信じていますから」
「うーん、さてどうだろうな」
そのことばに、やはりというか澪雫は少々顔を曇らせる。
もちろん、そんなことをするつもりは毛頭ないが。
こっちが相手に依存するのではなく、将来の事も考えるのならば相手をこちらに依存させなければならない。
あ、と澪雫。
「でも、私は師範からネクサス君のことを聞いていますから」
「ん?」
その次の言葉に、俺のこころは少々不安定になった。
「わたし一人だけでは、全然足りないのでしょう?」
これは……ハーレムの予感っ……!!
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