第62話 「凱旋ディナータイム3」
零璃の、いや関帝家のヘリコプターということは中にもちろん朱玄さんがいるわけで。
そして、その中にちょこんと座っていた人に、俺は目をやった。
髪の毛の色は薄紫色。顔はどうみても俺の母親を幼くした感じの人。
あれ? この人誰だったか。
「ネクサス、どうした?」
「いや、ど忘れして」
朱玄さんに問いかけられ、俺が答えると関帝家現代当主はハハッと乾いた笑いをこぼす。
「私の妹と同時に、ネクストの妹でもある紫玄だ」
そこで思い出した。
……なんかいろんな複雑で面倒くさい理由で、アルカディア姓を手に入れて正式に親父の義妹になった人だ。
この人が義妹になるまで、母親は気が気でなかったとかなんとか。
なんせ、今でこそ少し違いがあるが親父が学生の頃は俺の母親と髪の毛の色以外見分けがまったくつかなかったらしい。
「あ、こんばんは」
紫玄さんが、俺をみて笑う。
一応叔母に当たるんだよな、この人って。
「なぜ、許可したんです?」
「そりゃあ、利害関係が一致したからだ」
俺が朱玄さんに聞くと、彼は頭を振って簡単に答えた。
「もっとも、それは今だからこそいえることだけどもね、お兄様」
「そうだな」
関帝家はアルカディア家と関係が持ちたかったし、そもそもその頃は紫玄さん、親父の事しか頭になかったし。
義妹になることによって、母親の負担も幾分か減ったらしいから、結果オーライの典型的な例なのかな。
よくわからないけれど。
いや、本当によくわからないんだがどうなってるんだこの人たち。
人間関係が複雑すぎて、ドロドロしてるからなぁ親世代。
「零璃、大丈夫?」
「ん」
確か、零璃って高所恐怖症だっけ。
とりあえず震えているため、彼の手を握ってやることにした。
「……うー」
「……澪雫もか?」
澪雫は、別の意味で震えていたが大丈夫だろうか。
緊張で顔が青白くなっているし、少し無理をさせてしまうかもしれないけれど……。
これから、これ以上に大変なことになると予想しているから、ここで躓かれてもって感じだな。
「ついたぞ」
違う意味でぶるぶる震えている二人をなだめながらいると、朱玄さんの声が聞こえた。
と、外を見ればそこは東京郊外。
下には、巨大な別荘。
「これが、親父の」
「アルカディア家の別荘だな、さすが」
朱玄さんがさすがとか言っても、朱玄さんの本家のほうがもっと大きいわけで。
なんだか、微妙だ。
「今の天王子学園の前は、東京の中にあったからネクストは冷さんとここから登校してたんだよな」
「へぇ」
「私も1年生の途中からここだったよ」
うへっ。
声まで紫玄さん、母親に似てる。
世界にそっくりさんは3人いるらしいけれど、さすがに似すぎである。
それにしても、この人身長も顔も幼すぎるだろ……。
このまま天王子学園入ってもたぶん気づかないわ。
「さ、降りよう」
ヘリポートに着陸した俺たちは、ヘリコプターからおちて入口を見張っている男女12人を見つめる。
が、何も問題はなかったようで、無言のまま通してくれた。
全員が美男美女だった、どうなってる。
しかも、顔だけじゃないっていうのがまた。
国トップレベルの実力を持つ12人。
名前は知らない!
「さて、俺が言うのもなんだが」
朱玄さんは、こちらに向かってくる俺の両親を見つめながら、俺たちに手を伸ばした。
「ようこそ、【凱旋】のディナーパーティへ」