第60話 「凱旋ディナータイム1」
「朱玄、さん?」
赤より紅い髪の毛を短く切りそろえ、筋骨隆々ながらもシュッとした出で立ちの男は、俺の言葉を聞き取ると少しだけ顔をゆるめた。
彼こそが、この日本で一番有名な鍛冶師一家「関帝家」の現代当主である。
「私の子供を賭けて決闘すると王牙から聞いてな、来たんだが」
と、朱玄さんは怒り心頭といった形相でかたまったままの男子生徒をにらみつけた。
「まさか、試合終了後に不意打ちを与えるような相手だとは思わなかったな」
「え」
名前も知らない先輩は、本当に今の今まで零璃が誰の子供なのか知らなかったらしい。
これは俺が予測していたことだし、たぶん「可愛いから」という条件だけで誘ったのだろう。
その結果、対戦相手が俺で、零璃が関帝家の子供ということになってしまった。
なんか、相手がかわいそうにも見えてきたが俺は気にしない。
「無理だな」
朱玄さんの声は、きっと重く相手にのしかかった事だろう。
もういい、と彼の手を引いてそのままはなしたが、その彼は。
その動作、なんの力もこもっていないような軽い動作でフィールドの外までふっとばされた。
俺でも何が起こったか分からなかったが、きっと当の本人が一番わかっていないだろう。
投げ飛ばされた男はそのまま宙を舞ったまま壁に激突し、迅速に医務室へ直行となった。
朱玄さん、さすがにやり過ぎじゃないですかねぇ。
「はい、試合はもう終わってるけど終わり。朱玄ありがと」
「うむ」
王牙さんの言葉を受けて、朱玄さんはうなずき元居た席に一っ飛びした。
まるで空中をあるいているような、そんな感じだ。
何しろ、速度もさることながら滞空時間が長すぎる。
ええと、と王牙さんは咳払いをすると勝者が俺であることを宣言して、そして一つ知らせがあると伝える。
その言葉に、スタジアムは先ほどの静寂はどこに行ったのか、一気にざわめき始めた。
「ええーと、ここに。同盟【ソキウス】の成立を宣言する」
そして現る一瞬の静寂。
嵐の静けさと呼ぶべきか、音を立てるのは風の音だけだろう。
「初期人数は6人。成立と同時に【楽園】との協定を結ぶ」
以上。と王牙さんは恐らくテンプレだろうと思われる文章を言葉にすると、はぁとため息をついて俺の方を向いた。
「これでいい?」
「あざっす」
これで下準備は終了した。
さて、次は領土をどこかで手に入れるべきだな。
「というわけで、【ソキウス】の発足が開始しました」
俺はそういって、一人一人の顔をみる。
先ほど勝利して正式にこちら側になった零璃は、朝のテンションはどこへやらといった様子で俺をにこにこと見つめている。
で、納得した様子でこちらをみるのは神御裂家の双子姉妹。
そして、うんうんと頷いている痕猫刑道と、綺麗に正座してちょこんと座っている笑顔の澪雫。
「これからよろしく」
俺たちの戦いは、始まったばかりだしこれからだろうけれど。
まあ、このメンバーだったら何とかやっていけるだろう。
男3人、女三人というバランスもいい。
……ただ、零璃を男とするか女とするかで結構変わるが。
「とにかくだ。領土はどこがいい?」
別に、序盤は侵害されることのない俺の部屋でも構わないって言えば構わないんだが。
現に、今居るのは俺の部屋だ。6人収容していたとしても、まだまだ余裕は十分にある。
姉さんの率いる【楽園】なんかは、この人工等の一つのビルをまるまる使っているわけだし、俺達も将来的にはそうしたい。
今は、姉さんたちがどうも用意してくれていたらしい2階もあるにはあるが、いくら信用して信頼できるとは言え協定にすぎないからな。
「それは追々考えましょうか、……今は、とりあえずどこかで食事でも行きませんか?」
澪雫の、その言葉は予知だったのか、何だったのか。
彼女が発言した次の瞬間、俺の持っていた携帯電話が鳴った。
……親父だ。
「ネクサス君、でないのです?」
「ん、ちょっと失礼」
と、とりあえず部屋から出て玄関。
外はすでに夕暮れ。今にも日は暮れようとしていた。
『もしもし、私だ』
「どうしたの?」
『今から、こちらに来ないか? 新生【ソキウス】のメンバーも一緒に』
「えっ」
ちょうどよすぎますよお父さん……。
勿論、行きたいけれどこの島から東京への便はもうない。
『便の事を心配しているのか? 問題ない、今そっちに向かわせているから』
「……行きます」
食費が浮くぞー!
朱玄さんつよすぎぃ……。




