第56話 「決闘パーガトリー2」
「いったいどうしたんだ」
とりあえず刑道もあわてている様子だったこともあって、走って移動しながら俺は彼に問いかけた。
俺の後ろには、澪雫もいる。平静を取り戻そうとしているが、そうもいかないらしい。
「簡単に言うと。関帝零璃が引き抜かれそうになった」
……なるほどな。
実に簡単で分かりやすい発言だ。
どうも、2年の同盟の一つが零璃に絡み、フリーだということが分かると強引に引き入れようとしたらしい。
「あれ? ということは今は零璃って」
「いや、途中で八神華琉先生が通りかかってくれた。今はネクサス待ちだ」
ああーたぶん代理決闘か何かが始まるんだと思いつつ、俺は納得した。
「だいたい、どのくらいの序列順位なのでしょう?」
「とりあえず頭の中のデータと照合したが、たぶん全員4ケタだろう」
忘れていたけど、この人学園長の息子なんだよな。
ということは全員のデータを持っているわけか。
……まて、この人も完全記憶能力を持っているのか。
今さらっと頭の中で顔を照合していたぞ。
「ところで、澪雫さんの顔が少々赤いような気がするんだが」
「な、なんでもないですっ大丈夫ですっ!」
どう見ても大丈夫じゃないんだが、と刑道は確信したようだったが、特に何も言わず。
代わりに俺を見て口を「ごちそうさま」の形にしてきた。腹が立つな。
「あ、きたね」
「華琉さん」
特進クラスの副担任は、俺たちを見てにこにこと笑った。
相手は、6人か。
ガラが実に悪そうで、頭も同時に悪そうだ。
零璃の性別もわかっていないんじゃないか、と俺は相手に失礼なことを考えながら考察する。
「あちらの言い分では、零璃くんがフリーだからもらってもいいだろう、ということなのだけど。どう?」
うーん、この調子だと零璃が関帝家であることもわかっていなさそうだな、と考えつつ俺は不覚にも吹き出してしまった。
「あ?」w
「いえ失礼。とりあえず、強引に引き抜かれては困るので、ここは決闘ということで」
おそらくここに華琉さんがいなければ、即戦闘に入っていたがもちろん今はこんなことにならない。
しかも、一回この「決闘」という言葉が出た以上。
彼らが零璃を欲するというのなら、俺に勝たないとそれは不可能になる。
「……たかが一年風情で」
「それを決めるのはあなた達ですから」
とりあえず、丁重に丁重に。
嫌味を言っていこう。
「まあ、その一年風情に勝てない、なんてことはありませんよね」
「なんだと!?」
隣で、華琉さんが「この人、父親にそっくり」とか言っていけれど気にしない。
気にしてはならないのだ。少しでも俺の実力を学園に広めておかなければ、そのあと【ソキウス】を作るのに制裁が来てしまう。
逆に十分な実力があると生徒に知らせておけば、俺が作っても文句を言う人は少なくなるだろう。
そして、文句を言いに来た人は倒せばいい。
少なくとも、俺は姉さんたち以外には負ける気はない。
「そちらもいいのね」
「……はい」
チッ、と舌打ちをしながら相手の男子生徒はうなずいた。
話はまとまった、と言わんばかりの満足げな顔で華琉さんは日時を設定する。
「今週末、金曜日の昼休み。スタジアムで、ね!」
どうも、俺たちは見世物になるらしい!
「こういうことって、よくあることなんですか?」
とりあえずまた何か起こるかわからないため、俺たちは華琉さんにわざわざ校門まで送り届けてもらうことになった。
その時に質問したのが、未だ顔が少々赤い澪雫だ。
「1年生が入学して、夏休みに入るころはとても多いね。看板がほしいでしょうし、女子を自分たちの同盟に引き入れることで、回復などの能力者であった可能性もあるから」
「ボク、男なんだけど」
ぼそっ、とそんなことを零璃は言ったが、そりゃあお前、そんなに可愛かったら普通は男って気づかないだろう。
「でも、スタジアムでやるのは今回が初めてかな?」
「なぜ?」
「なぜって、今週お父様が来るって言ってなかった?」
あっ。
スタジアムを用意したのも、わざわざ週末にしたのも。
大御所がこぞって東京にその日、来るからなのか。
気づいた俺と零璃に、華琉さんはにやっと笑って息を吐く。
「まあ、あなたが負けることなんてないでしょうけど。……名乗るときは本名で、ね?」
本名か……。長くなりそうだ。
日本語に訳したら50文字近かった気がするが、まあいい。
「この勝負に勝ったら、それと同時に【ソキウス】の結成を宣言したいんだが」
「やっぱり、一人足りないんだよな、一時期だけ魅烙を貸してもらうか」
その前に、神御裂家の子供が見つかれば、本当に助かるんだが。
さすがに、そんな美味しくはならないよなぁ。
 




