第50話 「早朝ブラッドバス1」
新章開始っ!
よろしくお願いします!
第1回公式試合が終わって、二日が経過し。
休みになった月曜日をぐうたらして過ごし、火曜日を迎えた。
「ネクサス、おはよう」
「おはようございます」
学園に向かう準備をしていたら、ドアをノックされた。
幼げで中世的な声と、物静かで落ち着いた印象をこちらに持たせる透き通った氷のような声だ。
「あいてる。おはよう零璃、澪雫」
部屋に入ってきたのは、美少女二人ではなく……美少年一人と美少女一人。
スカートをはいているけど、男のほうが関帝零璃。
清楚な白いワンピースを着ている方が、女のほうの霧氷澪雫。
零璃は零璃で男か女かわからなくさせるような名前をしているが、澪雫。
圧倒的に雨冠の割合が高い。
だからなんだと言われたら、気になっただけと答えるしかないのだが。
「確か、澪雫って昨日の夜やっと退院したんだっけ」
「はい」
「すまないな、見舞いに行ってやれなくて」
俺の言葉に、澪雫はいえいえと首を振る。
本当にいい子、なんだよなぁ。
デレる前はどうなるんだろうとハラハラいしていたんだが、ふたを開けてみたらチョロインだった。
今の状態だけを考えると、これまでにないほどいい女の子なんだが。
あーかわいい。
「ん? 私の顔に何かついていますか?」
「いや?」
そうやって小首をかしげるところも滅茶苦茶可愛いんだよな。
俺、かわいいしか言っていないような気がするが。いいか。
「けがは、治ったのか?」
「まだ、完治には時間がかかりますが、傷はあまり残らないようですよ」
「……不十分だな、俺に治癒系統の能力があればよかったんだが」
女の子のからだに傷が残るのはいいことではない。
親父は、母親が【剣聖】だからこそ。
どんな傷でも、持ち前の能力で直し続けていたという。
まあ、それは俺がまだ才能に開花していないからできないのであって。
俺の才能が開花さえすれば、親父みたいに万能な能力者になれると考えているけれど、実際はどうなんだろうな。
っと。
「魅烙は?」
「魅烙ちゃんは、お風呂みたいですよ」
水音で判断したのかな。
まあ、いいか。
零璃は、爪先立ちになったり普段の高さに戻ったりとぴょこぴょこしていたが、たぶん暇を持て余しているんだろう。
「もう少し時間がかかるから、中に入って座ってていいぞ」
「はぁい!」
単に座りたかっただけか。
零璃は真っ先に入っていったが、澪雫はあくまでも入らずに待つことにしたらしい。
特に遠慮なんてしなくてもいいと伝えたが、澪雫は微笑んで首を振るばかりだった。
「いいんです、こうやってネクサス君ともっとお話ししていたいから」
「……」
彼女の言葉は、本当にうれしいものだが。
それを素直に受け取っていいものか、どうしても少しためらってしまう。
良くも悪くも、魅烙は単純でわかりやすい。
こういってしまっては悪いだろうが、魅烙が俺に対して向ける好意は、10人中10人が「愛情」とか「恋慕」とか、はっきりと示してくれるだろう。
しかし、澪雫は?
澪雫が今さっきみたいに「俺と~したい」と言ってくれるのは確かにうれしい。
こちらが澪雫に好意を持っていなかったとしても、澪雫は絶世の美少女だ。男なら自信がつくだろうし誰しもが喜ぶだろう。
でも。
澪雫の言葉の影には、どうしても何かが見え隠れしている。
別に俺が特別とか、そういうことを言いたいんじゃない。
それでも、ほかの人とは違う「何か」を、澪雫は俺に伝えようとしていると俺は思っていうる。
「それ」がいったいなんなのか、俺がヒントすらつかんでいない以上、彼女に深入りすることは避けた方がもちろんいいんだろうけども。
「どうしたのですか?」
「ん、何でもないよ」
「そうですか」
あ、ところでと澪雫。
「同盟の件、どうするんです?」
「そうするもなにも、一人足りないんだからかき集めるか厳選するかしかないだろ?」
「いえ、そういう意味でなく。【ソキウス】を名乗る以上、危険は伴いますよね?」
「ああ、伴うだろうな」
リンチを受けるかもしれないし、いろいろと白い目で見られる可能性はどこよりも高い。
ある意味、【楽園】よりも高いかもしれない。
「ああ、でも気にするな。心配しなくてもいい」
「んぅ?」
訳が分からない、と首をかしげて見せる澪雫の頭に、俺は手をそっと置いてみる。
抵抗はしないどころか少々照れているな、なら大丈夫だろ。
「俺を誰だと思ってる?」
「ん?」
心なしか、少々うるんだ目で上目づかいにこちらを見つめる澪雫。
「……一人二人くらい、守ってやれるさ」
「おっまったっせ……ぇ」
俺が軽く澪雫を抱き寄せた瞬間。
魅烙が、部屋の中に入ってきた。
あ。




