第48話 閑話 「第1回公式試合が終わったころ」
時系列的に、40話と同じです。
「ヴァロッサ、寮に帰らなくてもいいのか?」
「いいの。……なんだか、自分が悔しいからもう少し練習する」
神鳴陸駆の問いに対して、ヴァロッサ・デスロストはそう答えるときびすを返した。
ここはもちろん、同盟【楽園】が余裕している拠点の一つ、本部とも言える事務所だ。
「前回、まったく活躍できなかった」
「そもそも鎌斬、お前参加してないだろ」
何やってたんだよ、と稲妻状に折れ曲がった髪の毛を持つ陸駆は、ぼそっと呟いた八龍鎌斬に対してつっこみを入れると、氷羅に振り返った。
「これからどうするんだ?」
「何が?」
「勢力では一番強いはずなのに、俺たちって2年5人と1年3人だけしか居ないんだぜ」
「これ以上増やす気はないよ?」
「えっ」
氷羅は、ふるふると首を振ると唖然として口を半開きにした陸駆を見つめ返す。
その目には、一体何が映っているのだろうか。
陸駆にはわからないが、氷羅はちゃんと説明する。
「私、最終的にはこの同盟をつぶす気で居るから」
「お?」
「ネクサスが【ソキウス】のリーダーとして、私に勝ったら私はすぐに解散する」
伝説の同盟。
「仲間」を名に冠した同盟を、氷羅の弟であるネクサスは復活させようとしているのだ。
もちろん、天王子学園の生徒たちは殆どの人がこころよく思わないだろう。
ネクサスは、それもわかっていて復活させる気だろう。
氷羅は、そこまで考えた上で、数々の試練を越えて。
さらに自分に勝利することが果たして出来るのだろうか、と考えているのだろう。
「まあ、まだまだ先だよ」
「そう、なのか?」
陸駆は半信半疑だ。
それは、決して氷羅が弱いなどという理由からくるものではない。
十分すぎるほど強い。天王子学園に序列制度が出来て、もっとも短期間でゼニスに上り詰めた生徒が氷羅だ。
しかし、と陸駆は氷羅の事情を知っているため、何も言えない。
彼女には、これ以上強さがあがりようがないのだ。
すでに、親の90%の力は出せて居るであろう。だからこそ強力な氷属性の能力を連発しながらも、舞うような戦い方を見せる氷羅は確かに強い。
でも、彼女の状態は人間的にも生物的にも他の人と一線を違える。
たしかに、【生きる伝説】ネクスト・アルカディアと【剣聖】涼野冷の子供であることは確かだ。
しかし、あまりにも二人に似すぎているのだ。
遺伝子的にどこかおかしいのか、そのまま【剣聖】の少女期のような美しさ、可憐さを併せ持ちながら。
そのまま、【伝説】ネクスト・アルカディアの能力をある程度コピーして使える。
それは氷羅自身が一番期にしていることであるし、陸駆もわざわざ口に出さない。
それでも、気になるものは気になってしまうのだ。
「だいじょうぶ、心配しなくても」
「そうか?」
「……私は、私。だいじょうぶ。私は、お父さんとお母さんの子供に間違いはないんだから」
その声は、あまりにも悲しそうで。
あまりにも、はかなげだった。




