第47話 閑話 「頂上の到達」
「これで……っ!」
氷羅は、右手からほどよく離れた場所に氷属性の氷塊を作り。
そのまま、対戦相手にたたきつけた。
「とどめだ!」
地面からわき上がる砂埃。
それは爆心地を示すかのように砂の波動となって周りに四散する。
氷塊でつぶされ、さらには冷気にさらされ、虫の息で横たわっているのは前ゼニス。
そう、今ここに理創源氷羅という新しいゼニスが誕生したのだ。
氷羅は、才能にあふれていた。
隠しているとは言え、その能力の強さから名家の雰囲気は十分すぎるほど出ている。
この世界は結局、血統主義である。
どの戦争も、能力の高い家系が生き残って次の世代の未来を担った。
能力はある程度依存する。
しかし、その才能が開花できるかは、その人次第というわけだ。
「なんていうか、呆気なく終わったな」
氷羅の秘密を知る、関帝赫良は微妙な気持ちのまま、彼女に話しかける。
アルカディア家の長女、とすれば入学してから半年で学年一位というのもうなずけるが。
もっと早く学年一位になれなかったのか? と聞かれれば頭を傾げるしかなかった。
「ゼニスが決定したし、この天王子学園も少しずつ変えていけばいいね」
「でも、この学園で一番権力を持っているのは生徒会だぞ?」
明確には、生徒会という組織は存在しない。
が、同盟制度によってくまれた組織の一つに、生徒会という巨大なものがある。
それが、生徒を管理していると考えても差し支えないほどのものだった。
「なんだかんだ、氷羅も誘われているもんな」
「私は入るきない、よ?」
おっとと、と目がくらみ倒れ込みそうになった氷羅を、赫良は支えた。
「赫良くん、ありがと」
「まあな」
とまあ、噂をすれば生徒会のお出ましだぞと赫良。
氷羅が顔を上げると、そこには同盟【生徒会】の盟主がいた。
盟主は金色の長い髪の毛に、空を眺めているような感覚に陥れられる澄んだ碧い目の男子生徒。
彼は、そのまま氷羅に近づこうとするが赫良に庇われる。
「退いてくれないかな、君は彼女の隣の男にふさわしくない」
「悪いけど、俺は女だ」
その言葉に、生徒会盟主は目を細めて、意地の悪い顔へと変貌させる。
「それなら、かまわないよね」
「……私が構うし、そもそも貴方の下につくつもりはないから」
氷羅は、一切の遠慮なくそれを言い切ると、指をパチン、と鳴らした。
「何のまねかな?」とせせら笑う生徒会盟主。
しかし、それは彼女の元に集まった4人の姿を見て、笑いを引っ込めるしかなかった。
炎焔のように赤い短髪に、どうみても男の格好だが、鍛冶の名門関帝家の娘、赫良。
不自然に黄色の髪の毛が所々、稲妻のように不自然な折れ曲がり方をした筋肉隆々の男。神鳴陸駆。
濁りの一切ない金髪の中に、柔らかながら相手に確実な殺気という精神攻撃を与えることが出来る戦闘狂系美少女、ヴァロッサ・バレット・デスロスト。
そして、黒髪金眼。身体を走るように龍の紋章が走っている男子生徒、八龍鎌斬。
全員が、19年前英雄として教科書に載った人々の子供たちなのだ。
「ゼニスになったと同時に、私たちは同盟【楽園】として来年まで持ち越さなければ成らないの」
氷羅は、こうして1年間ゼニスを守りきったのだ。
次代の伝説、ネクサスを迎い入れるために。




