第46話 閑話 「天才の誕生」
「もう少し、気張らないで来てほしいのになぁ」
氷羅がそう呟くその目の前には、同じ学園の生徒2000人が山のように積み上げられていた。
これは、ネクサスが天王子学園に入る1年前。
理創源氷羅の伝説が一つ、できあがりつつあった。
「えっ。氷羅、どうなってるんだ?」
ふるふる、と自分の長い銀髪を振っている氷羅に、生徒の荒波に揉まれたのだろう、関帝赫良は呆然としていた。
最初は氷羅も赫良も同じくらいの序列だったのだ。
氷羅が150位、ネクサスの今と同じで。
赫良が152位。
「レベルが、違う」
「……んー、一斉に能力を使ってくるものだから暴発による自滅が多い、かな」
「自分で倒したっていう感触のあるのは?」
「1000人からは数えるのをやめた」
「おいっ!」
むしろ1000人までは数えていたのか、とべつの意味で驚く赫良は、赤い髪の毛の乗った頭をはっきりさせようと地面に打ち付ける。
幻覚でもみているのか、と思っているようだ。
しかし現実である。
2000人の人が積み上げられた、というのはホログラムでしかないが、実際に医務室にはちょうど2000人、いる。
さらに生徒たちは全員が2・3年である。
「【伝説の再来】ってよばれる意味も分かるよ」
「……あら、赫良ちゃんには教えてなかったっけ」
「ちゃんつけるな。知らない」
「赫良くん、には教えてなかったのね」
こうして、赫良は氷羅が本名「ヒョウラ・アルカディア」であることを知り、まさに【伝説の娘】であったということを知る。
ここで、赫良と氷羅の間には絆が生まれたのだ。
赫良は、もともと女でありながら男として鍛冶の手伝いをしていた。
力強い動きが、弟である零璃の代わりに出来ると言うことは鍛冶屋の跡継ぎとしてかなり有能だったのだ。
「ということは、天王子学園を卒業したら、赫良くんは家の跡を継ぐんだね」
「そうだな。……何千年も昔から続いている場所だし」
関帝家、それはもっとも歴史のある今まで続いた鍛冶屋。
それは、この世界に能力という概念があるからこそである。
「私も、一本ほしいんだけどなぁ」
「本店は予約が来年まで埋まってるんだよな」
えー。残念、と氷羅はしょんぼりとする。
妙なあざとさがあったが、氷羅からすると何も意図していないのだろう。
しかし、男として育てられてきた赫良は、実際には女であっても彼女に惹かれ始めていた。
「……俺が、作るよ」
「ん?」
「氷羅、待ってて」
赫良は、氷羅に約束したのだ。
この学園にいる間に、最高傑作を作って彼女に送ると。
「何をやっても、変に人の好感度をあげていくんだな」
「何か言った?」
「ん、なんでもねーよ」
アルカディア一家は、確かにそうだった。
自然と、周りの人が彼らに対して好感度をもっていく。
そして、もちろん。
そんな彼女を憎む人も、いる。




