第45話 閑話 「愛情は、歪んでも生まれるもの」
「王牙君、王牙君」
赤髪の美女が、筋肉隆々の青年に抱きついていた。
戦争が終わって1年がたとうとしている、日本のとある一軒家で。
「ん?」
「天王子学園に、教員として誘われてるけど、どうする?」
男の声は、爽やかさを全面に押し出したようなもの。
例えるとすれば、真夏の海だろうか。
対照的、とはいいがたいが女性の声も特徴的である。
その口から紡ぎ出されるワンフレーズワンフレーズは、まるで喉をとろけさせるシロップのように甘ったるく、官能的だ。
「人手不足、だそう」
「……ああー、そういうことか華琉」
二人は婚約者同士でありながら、事情が複雑すぎて恋人、という間柄ではなかった。
ただ、二人には共通の目的があった。
ふつうの人に言わせれば、「歪んでいる」と思われても差し支えの無いような、目的が。
「ネクストとかも大変そうだし、なあ」
「ね、周りにもそういう人がいるでしょ?」
「うん、いいよ」
「ありがと。……はぁ」
ふぅ、と息をついて女性は男性の首に手を回し、自然な流れで唇を合わせた。
男性は拒否することなく、彼女の接吻を受け入れる。
「んはぁ……んっ」
あっという間に男の腕に包まれた美女は、矯声一歩手前の声をこらえつつ、男の手にしがみつく。
男は彼女の体を支えながらも、頭をなでるのをやめなかった。
「おう、がくん、くるしぃ」
「ああ、すまん」
いったいどれくらいの力で二人は抱き合っていたのだろうか。
何を思って、抱き合っていたのだろう。
美女は、呼吸困難に陥りそうになって男に合図を送る。
「俺は、冷と結婚したかった」
「私も、ネクスト君と結婚したかった」
本音を、二人で噛みしめ、呟く。
しかし、二人の願いは叶わなかった。
「俺たちの悲願が叶わないのなら」
「……あとは、私たちの次の代が」
私たちの子だ。好みは結局似通ったものになる。
それなら、彼らの子供を好きになるのは、きっと必然的のことだ。
「そのためなら、どんな手を持ってしても」
「非力だった私たちよりも強い子を、産まないと……」
この二人は、何回この儀式にも似た、「異常」なことを繰り返していただろう。
人の愛というものは、神秘に包まれている。
こんなことから、愛情が生まれてしまうのだから。




