第04話「入学式当日1」
1日で100ptを越えてホクホクしてます。
皆様、ありがとうございました。
「朝だにゃー! 朝朝ぁ! 朝だにゃにゃん!」
入学式当日、俺の安らかな朝は一瞬にして破られた。
朝から騒がしい、その声の正体は……。
魅烙である。
「なんで、部屋に、入って、これるんだ……!」
呂律のほぼ回らない、口をがんばって動かし、途切れ途切れに声を発する。
絶対に「にゃ」とか言うもんか!
俺の質問に、魅烙は悪びれた様子もなくにゃーんと伸びをするとドアの方を指さす。
「ドア、鍵がかかってなかったにゃー」
「なん……だと……?」
どうやら、俺は部屋に帰ってきたとたんに意識を失っていたらしい。
ドアに鍵もかけず。
その結果、魅烙が楽々と侵入できた、と。
「いや、そもそもなんで入ろうとしたんだよ」
「ネクサス君が強いから」
「え?」
「強い雄に、雌がすり寄るのは自然の摂理だからにゃん」
魅烙は、身体を艶やかに動かした。
そしてベッドの上、仰向けに寝ている俺に対して覆い被さるように身体を移動させる。
金縛りにあったが如く、指一本動かせなくなる……。
というのはシャイな男の話で、俺は「にゃ?」と口癖のように声を発しながら、俺の頬に手をあてる魅烙の手を、そっと振り払った。
ぺたん、と俺の上で馬乗りになる魅烙。
昨日の痴女を体現したような服装ではなく、今日は入学式ということもあって推奨制服のブレザーの魅烙。
制服は制服で、スカートから覗く健康的な太股が艶やかに見えてしまう。
……それにしても、この女。胸は無いのに何でこんなにも色気に溢れているんだ?
「ねぇねぇ、今から入学式の時間までにゃんにゃんしにゃい?」
「それよりも今は何時だ」
外から暖かな日光が差し込み、目を指している時点で日が昇ったこと位は分かるが結局どのくらいの時間だろう。
日本は四季がはっきりしていると聞く。四月上旬の今日で早くから日が昇っているということはあるんだろうか。
「そうだにゃー、6時かにゃ?」
「寝る」
朝っぱらから元気なことだ。
俺は時差ボケに加えて昨日起こった様々なことで身体・精神ともに疲労しきっているというのに。
「にゃんにゃんは冗談としても、ちょっと早めに行ってパパとママに挨拶行こ? ね?」
「八神夫妻に? ……もう少し後でも良いだろうに」
さすがに今は早すぎるだろう。
俺は掛け布団を引っ張り、再び眠りの世界へと旅立つことにした。
のだが、ここにいる痴女はそれを許してくれないらしい。
「なら、魅烙がネクサス君のお布団になるにゃ!」
「暑苦しい、やめろ!」
結局、俺は掛け布団無しで寝ることにした。
床には、掛け布団で簀巻きにした魅烙が、うーうー唸っているが気にしない方向で行こう。
「な、何で……。魅烙ちゃんとネクサス君が、一緒の部屋に……!」
「零璃も鍵がかかってないことを良いことに襲いかかってきたかー」
魅烙を簀巻きにして、彼女のうなり声を睡眠用BGMに寝て、視線を感じ目を開けたら零璃がわなわなと震えていた。
床には簀巻きになっている美少女。
こりゃあ、俺が何かしたと疑われても仕方がない。俺が悪い。いや悪くないが。
俺は彼女……ではなく彼に、かすむ目をこすりながら話しかける。
「やっぱり、スカートか。……似合ってるぞ」
「ぽっ。……じゃなくて。……どうして、一緒にいるの?」
「3メートルも距離があるんだぞ、どこが一緒か」
俺は起きあがると、時間を確認してそろそろ頃合いかと思い着替える準備をした。
顔をとっさに隠す零璃。俺はその行動に頭を傾げる。
いや、女だったら避けるけど。彼女……じゃない、彼は男だぞ?
「まさかと思うが、心も女だったりしないよな?」
「……どっちだと思う?」
俺はあざとげな顔をちらっと見せた、零璃を見つめながらため息をついた。
「出てけ」
「うぇっ? ……で、でもっ」
いいから出て行け、と俺は零璃を部屋から閉め出して部屋にきちんと鍵をかける。
そして寝間着……ではなく昨日着用していた紺色のTシャツに手をかけて、動きを止めた。
そしてもぞもぞと動く掛け布団の太巻きに目を向ける。
魅烙がこちらをニヤニヤした眼で見つめていた。
「……」
「み、見つかっちゃったにゃっ」
「……お、おおう」
俺は簀巻きから顔だけ出した魅烙の上に敷き布団をかぶせて、シャワー室に向かった。
「寮から歩いて、ちょうど10分くらいか」
時刻は10時前後。俺は魅烙・零璃と一緒に一足早く天王子学園の前にいた。
入学式は正午から始まり。それまでの二時間を挨拶の時間へあてよう、という訳だ。
俺は二回も睡眠妨害されたというのに、この二人の美少女……じゃなくて一人の痴女と一人の男の娘は、なぜか分からないが上機嫌だった。
「そういえば、涼野さんはいらっしゃる?」
「母親なら、来賓でくるとさ」
母親は日本の誇りで、たびたび女性には崇拝されているという。
美貌は40歳近くなった今でも、まったく衰えていないと親父は笑っていた。
事実、確かに卒業時の母親と今の母親、本当に変わっていないんだから驚きだ。
まだ十代後半に見える。そのせいで両親が並んで歩くと、「可愛い娘さんですねー」とかは……さすがに言われないか、有名だし。
で、親父は「生きる伝説」っていわれているし、母親も「剣聖」だから、俺に対する周囲の期待度というのは常に飽和状態だ。
だけど気にしないのが俺。俺は俺であり、親は親。
確かに母親の剣技も、父親の強さも教わっているし目標にしているけれど、という話だ。
「涼野冷さん……、本当に……綺麗な方だよね……」
「思えば、ネクサス君にも目とかは面影があるにゃんっ」
目か……。
うーん、目か。
そんなことよりもだ、と俺は話を逸らして目の前に堂々と構えてあった校門と。
奥に続く学園を見つめて、何とも言い難い感覚に襲われていた。
少なくとも、これからの学園生活に対する期待と不安が入り交じっておかしなことになっていることくらいは分かる。
「にゃ、パパとママはどこだろー? あ、いた!」
きょろきょろ、と校門を見回して魅烙がわきゃー! っと走り出した。
その先に居るのは間違えようがない、八神夫妻だ。
「魅烙。さすがに早すぎないか?」
「そんなの関係ないもんー!」
……この娘、子供か。
俺と零璃は、お互いに顔を見合わせてきょとん、としていた。
ちなみに、今魅烙が抱きついている……筋肉の塊に近いガタイのいい男が八神王牙さんである。
俺の親父と相棒を組んで、二十年前に世界を救った一人とされているすごい人だけど、警察・国防軍・傭兵団など様々な場所からスカウトされてもすべて断って天王子学園の教師として赴任している。
「ネクサスじゃないか!」
「お久しぶりです」
と、王牙さんが俺に気づいたようだ。
魅烙と最後にあったのが、小学校にあがる前だから……。
結構久し振りだな。王牙さんにあうのも。
「うん、さすがネクストと冷の息子だな。似てる」
「似てる?」
そうだなぁ、と王牙さんは遠い目をして天王子学園をみた。
たしか、一回天王子学園って言うのは場所を移されているんだっけ。
ここに出来たのは、たった5年前って聞いた気がする。
「ああ、俺が初めて会ったときの、ネクストはちょうどそんな表情だった。自信に満ちあふれていながらも……」
目的を必死に探そうとしていた、と王牙さん。
蛙の子は蛙ということを言いたいんだろうか?
「とにかく、俺は期待しているからな。『伝説』の息子なんだから、がんばって頂点目指して頑張れ」
「はい」
天王子学園、最強の座。
ゼニス……か。
「ねえ、ちょっと私を忘れてない?」
今日から1週間は1話ずつの更新です
そのあとは決めていませんが、よろしくお願いします。