第35話「第1回公式試合6」
短くなってきましたね。
次回から長めに書こうと思います。(3000字くらい)
「あっちゃー」
「どうしたんですか、ヴァロッサ先輩」
となりで、ヴァロッサ先輩が悔しそうな声を上げる。
私のペアの先輩は、私と同じ遠距離型の武器を使っているんだけど、どうしたんだろ?
「急いでここを離れなきゃ」
「え?」
私が訳も分からず聞き返すと、先輩はかなり焦った顔で今さっき向いていた方向を指さす。
まだなにも見えないけれど、遠くの方から「何か」が近づいてきているような気がする。
「ネクサスが、攻めてくるわ」
「ふぇ!?」
意外すぎる言葉。先輩の話を聞く限り、どうみてもあり得ないタイミングで金属の壁に銃弾が阻まれた、というのだから。
……零璃くんの仕業かな。
でも、音速以上のスピードで撃ち出される銃弾を、生身の……能力者とはいえ人間が反応できるの……?
「魅烙ちゃん、近接戦闘はできる?」
「人並みには、できるとは思いますが」
なら大丈夫ね、とヴァロッサ・バレット・デスロスト先輩はちょっと待って、と私に指示するやいなや、姿を消す。
山頂に向かって、迷彩を施しつつ思いっきりダッシュしていったんだとおもう。
なんだか、忍者みたいだなぁと私は思いつつ、スコープをのぞき込んで正面の警戒を怠らない。
目の前にはただでさえ半壊しているというのに、数十分前の氷羅さんの攻撃によって全壊した廃墟が広がっている。
でも、その中に何百人の伏兵がいるか。
隙あらば、打倒【ゼニス】に燃えている人が、何人いるのかはわからないけれど。
先輩の話によると、かなり多いらしい。
「有名税、だっけ」
確かそんな名前の用語があったような気がするけど。
……集中、集中。
「……肩が出てる」
私はそうつぶやきながら、トリガーを押し込み一人を撃墜させる。
ヘッドショットでもなければ、心臓に当てたわけでもない。
武器の性能によって、体の一部に当ててそこから焼き尽くす、ただそれだけ。
私は母親のように射撃の名手でもなければ、父親のように武術で人外じみた強さを誇るわけでもない。
「悔しい」
追いつきたい。
でも、追いつけない。
だから、自信満々のネクサスくんに、憧れながらも……。
彼の実力は努力によるものだとは知らず、あのときはひどいことをいってしまった。
私も、ネクサスくんも。
待遇は、そんなに変わらないはずなのに。
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「ついに、ネクサスがきたって?」
「……うん、ミスした」
悔しそうな顔で、ヴァロッサはうなずく。
守ったのは赫良くんの弟さんかな、零璃くんだったっけ。
誰がどうみても美少女なのに、能力は結構えげつないね。
はじかれた、っていわれてるから展開速度も防御力も高いってこと、かな。
「ネクサス、いい友達を見つけたね」
「……防御特化。それだけだぞあいつ」
となりで赫良くんがなにやらいっているけど、ここは無視しましょう。
私的には、まだネクサスとは戦いたくないのだけれど。
「相性が悪いのか?」
「ネクサスがね。……いっちゃあ悪いけど、私は才能型。ネクサスは努力型。……特にまだ覚醒していないネクサスが、私に勝てるわけがない」
言い方は確かに厳しいかもしれないけど。
正直、私がネクサスに負ける要素が見あたらない。
まだ、ネクサスは才能が開花していない。
その状態で、私に勝てる訳がない、これはネクサスもわかってるだろうし、私もわかってる。
両親だってわかってるはず。
「なあ、確か氷羅って実年齢はいくつだっけ?」
「実年齢、という意味は分からないけれども。……私が、【人間】として認識されてからっていう意味かな?」
戦場で世間話。
こんな緊張感がまるでないことができるのは、私の立場だから。
「そうそう」
「最低でも22歳じゃないかな。でも調整とかいろいろあったし、確かなことは調べてもらわないとわからないかも」
「そうか」
私は「人間」なのかどうか、そんなことはべつに大した問題じゃない。
人間と変わらない姿をしているんだから。
そして、私は。
紛れもなく父と母の遺伝子を受け継ぎ、ネクサスの姉である。
それだけで、今はいい。




