第34話「第1回公式試合5」
俺が零璃の場所まで戻ると、零璃はちょうど二人を鉄パイプ薙ぐって吹っ飛ばしているところだった。
片手で能力を使い楯とパイプを作り出し、防御の後パイプで頭を的確にねらう。
そんな彼女……じゃなくて彼の薙がれるような攻撃を見ながら、零璃に声をかけた。
「あ、帰ってきたんだね」
「全滅させてきた。そっちは無事だったか?」
こちらが聞くと、零璃は苦笑して俺に手を見せた。
……ナイフだろうか、傷は浅いが血はにじみ出している。
俺は黙って彼の手を自分の手に乗せると、一応治癒系の能力を使っておく。
正しくは治癒ではなく、一時的に凍らせただけだが。
俺の氷は滅多に溶けないため、これで充分だろう。
「ありがと」
「気にするな」
楯にしてもらってるんだし。治癒くらいは俺がしないとな。
と、零璃は澪雫の心配をしているようだ。
「澪雫はリタイアした」
「まあ、そうだろうね……っと!?」
誰かの殺意を感じ取ったのか、零璃は俺の後ろに向かって鋼の壁を作り出す。
金属と金属のぶつかり合う音が響き、銃弾のようなものが上に跳ね上がった。
金属の銃弾は、どうだろう。
能力のほうが強力だから、使う人は少ないんだが。
「ナイスガード」
「ん、いえいえー」
うわぁ、こうやってさらっと流すの可愛い。
天使だな、本当に。
ちなみに天使は男女の判別が無かった気がする。
どうだったか、大天使ガブリエルだけ女性でほかが男性か両性具有か。
つまりは零璃に天使を使っても大丈夫だ。
「今、何人残ってるんだろ」
「姉さんがなんだかんだ3万とか倒してるんじゃないかな」
本当にありそうなんだよな。
ここまでこなかったけど、あっちではドンパチやってたし。
俺が澪雫の方に行っている間も、飛び火がこなかったから良かったもののすぐとなりで派手な能力近接戦闘が行われていた。
……まあ、その勝者を俺は遠くから一方的に攻撃したんだが。
見ていた観客が居たら誰もが「きたない」と言うだろう。
「なんだかんだ、1時間くらいたってるしね」
「そんなにたってたっけ?」
「ネクサス君が澪雫ちゃんを助けに行った時間が30分くらいだよ」
1キロって、俺だいたい時速90キロメートルでトップスピードでるから、移動時間は往復でたったの1分20秒なんだが……。
時間がどうも合わないな、でも気にしない方がいいかも。
零璃は相変わらず、同じ方向から継続的に撃ってきている銃弾を跳ね返している。
「どうしよう、ボクはネクサス君側のほうのは防御できるけど、反対まで集中が続かないと思う」
「なら前に向かって攻撃しろ」
「ボクぅ!?」
「じゃあ俺がやるよ」
ぽいっ、と俺は巨大な氷の塊をゼニスたちが居ると思われる山に向かって射出する。
途中で砕けても、廃墟にぶつかるためキル数は稼げるんじゃないか、と思ったからなんだが……。
うん、思った通り廃墟の丁度上で牙に飴を砕かれたような砕け方をした。
おそらくあのやり方は……どうだろう、俺の氷を砕くのにかなりの力が必要だとは思っているから、姉さんかそれと同等、ちょっと下くらいか。
俺が姉さんに初めて呼び出されたとき、俺の方をつかんだ厳つい男、かな。
「っと、零璃全方位防御! 俺を無視しろ!」
「えっ」
「後ろから何か来る!」
その瞬間。
ダイナマイトが破裂したかのような、とんでも無い爆音が鳴り響いた。
まあ、防いだんですけどね。
爆発物はどうも考えるにロケットランチャー?
流線型の何かが見えた為、とりあえず吹雪で壁を作った。
壁を作った後、無理矢理上に打ち上げた……。
どころか、俺は向きを180度変えて打ち返し。
そのままつっこんできた誰かわからない人にぶち当てた。
はい、回想終わり。
「む、むきず?」
「無傷」
頭の上に「!(エクスクラメーションマーク)」と「?(クエスチョンマーク)」を浮かべているかのように俺をまじまじと見つめる零璃に、俺は笑いかける。
「……全部、ネクサスだけでいいんじゃないかな」
「驚きすぎて『くん』すら抜けているぞ」
「もういいや、これから呼び捨てにする、と零璃。
うん、今と全く関係ない。
もう少し続きます。
 




