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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
33/199

第33話「第1回公式試合4」

澪雫視点

(ヤム○ャ)視点

 なんど、無抵抗のまま殴られたか分からない。

 体に傷が増えていく中、それでも相手は加減を分かっているのかじわじわとダメージは蓄積されていく。


 痛い。痛い。

 しかし、言葉にしてはならない。


 そのとき、ことは動いた。


「リーダー! リーダー!」


 チームメンバーの1人が、私の首を絞めている女性に向かって叫ぶ。

 かったるそうに、女性は後ろを向くと「何?」と聞いた。


 頭の中に酸素が無くなってきて、一瞬気を失うところだった私は何もすることが出来ず、首を掴まれたままの無様な姿で地面に倒れ込む。

 誰も助けようとはしない。それどころかみんながみんな笑って嗜虐的な笑みを浮かべている。

 そんな一団に。


「人影が、まっすぐこっちに! 1年です」

「1年なら、あんたたちで充分でしょう?」


 いちいち話かけんな、と突き放すリーダーだったけど。


 ほんの数分前も、1人の1年生が来てあっけなく蹂躙されたから、慢心しているのかな。


「それが、勝手が違うんです!」

「どういう意味?」


 速度が速すぎるんです! まるで車のようなスピードで、まっすぐこっちに! と。

 その言葉に、私は覚えが合った。


「応戦が間に合いません! 来ます!」


 その言葉を放った瞬間、報告係だったその先輩は、消し飛んだ。






 何が起こっているのか分からないと、「は?」とでも言いたげな顔でリーダーほかは唖然とする。


「……細氷ダイアモンドダスト……?」


 リーダーが疑問視したようにつぶやいた瞬間、そこに降り立ったのは銀髪碧眼の少年。

 涼しげな雰囲気を持ち合わせながら、その顔が表すのは。


 烈火を遙かに越え、業火を思わせる激しい怒りだ。


「……だれよあんた」


 私は、彼の名前を知っている。


「俺?」


 少年は、ぐっと両手を握りしめるとしずかに聞き返す。

 その声は、絶対零度以上かと思わせる、そんな冷たい声。


 師匠が本気で怒ったときと、同じ。


「俺の名前は、ネクサス・アルカディア」


 その事実に、私を含めて一団全員が凍り付く。

 リーダーは、思わず私の首を放して手を後ろに隠す。


 ネクサス君は、私を見て頷くと宣言した。


「ここにいる人、1人残らず許さない」


 彼が地面に手をかざすと、氷で出来た一本の剣が現れた。

 長さは120センチメートルほど。柄は短い。


 カチャ、と音。リーダー含め全員が、ネクサス君に刀を抜いたのだ。

 数の暴力に対しても、彼が負けることはない、みたい。


 剣を楯代わりとし、蹴りだけであっという間に10人が吹き飛ぶ。

 時速60キロメートルで走れる速力を持つネクサス君は、勿論人を蹴っただけでも十分な凶器になり得よう。


 刀で防御しても、間に合わない。

 しかもネクサス君は、足を能力で強化しているらしく。

 刀すら、蹴り折ってしまうほどの威力。


「……はぁ」


 10分もしないうちに、残るのは私とリーダーだけになってしまった。

 顔面を蒼白とさせ、手汗を振り払うように乱暴な手つきで刀を握りしめるリーダーを見て、ネクサス君ははぁとため息をつく。


「こりゃあ、見たら母さん泣くな」

「……何がいいたいの」

「戦闘は、俺の両親もみているから」


 その言葉に、リーダーは放心してしまう。


 興味なさそうに顔から生気がなくなったリーダーを見つめながら、彼は手のひらで剣をもてあそんだ。


「結局、普通の人間は優越感によって人を傷つけるというわけだ」

「あんたに、何が分かる」

「お前の魂は、その刀にこもっていない」


 ネクサス君は、リーダーの正確な剣裁きをよけていきながら言葉を続ける。


 ふつうはよけられないのに。

 来てると分かっても、音速に迫るその刀を。


 ネクサス君は、渾身の蹴りで折ったのだから。


「なっ……!」

「お前、なぜ強くなりたい?」


 一歩。

 一歩。


 硬く地面を踏みしめつつ、ネクサス君は恐怖に駆られてか動けないリーダーに歩み寄る。


「優越感に浸りたいからか?」

「あんたに、何が分かる! 全部、こいつが……!」


 そういって、私を指さす。

 ……私、何かしたかな?


「人のせいにしたって、生産的じゃないな」


 ネクサス君は、手を振って氷でリーダーの四肢を固定する。

 太陽でも溶けない、その氷はしっかりとリーダーの座標を動けなくした。


「俺は生まれつき父親のような能力の才能も、母親のような先天的な剣の才能もなかった」


 自分に言い聞かせるように、ネクサス君はつぶやく。

 それでも、彼が今こんなに強いのは。


 あのとき、私に言ってくれた言葉とさほど変わらない、しかし確かな怒りをはらむその言葉。


「俺の答えは、この魂にある」


 ドゥン! と、あきらか人間の蹴りで発生し得ない巨大な音が響く。

 ネクサス君がリーダーを蹴り飛ばしたのだ。


 テレポートさせず、彼女の体だけを吹き飛ばす。





 すべてが終わったのを確認し、ネクサス君は私の様子をみた。


「怪我は軽微。大丈夫か、首は」

「なんで、助けにきたの?」


 なぜって、とネクサス君は戸惑う。


「……このまま。ネクサス君を騙して倒しちゃったかもしれないのに」

「人を騙す、もしくは見過ごすよりも。裏切られた方がマシだ」

「ていうか、どうやってここが分かったの」

「1キロメートル先から、リンチの様子は把握できた」


 はぁ? と私がいう前に。

 ネクサス君は、私の傷をもう一回みやってつぶやく。


「どうせ、そっちのアライアンスは解散する。今回はリタイアした方がいい」

「……」


 それだけをいうと、ネクサス君はきびすを返して去っていった。


 私は、はぁといきをはいてリタイア宣言をする。





 ……師匠、お怒り、かなぁ?


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