第31話「第1回公式試合2」
「……本当にこんな場所から狙うつもりなの?」
「はい」
「……親に似て、すごい腕を持つのね……」
今、私八神魅烙は、山の頂上から少々……およそ200メートルほどの場所にいる。
そこにちょっとだけ、2人が寝そべる程度の開けた場所があることを氷羅さんから聞いた私は、そこに立てこもることにした。
付き添いの先輩は、金髪をセミロングにした、柔らかな雰囲気を漂わせている人。
名前はなんだっけ、たしか……。
「ヴァロッサ・バレット・デスロスト先輩」
「ん? ああ、ファーストネームだけでいいわよ」
「ヴァロッサ先輩は、どんな能力をお持ちで?」
この先輩も、20年前の世代の子孫。
確か、ネクサスくんのお父様……【伝説】の親友の娘さん、だったっけ」
私が先輩に訊くと、先輩はちょいと首を傾げた後面白がるように。
小悪魔的な笑みを浮かべ、私にささやく。
「そうねぇー。イロイロ♪」
いろいろって、結局何やってたんだろう……。
と、私はそんなことを考えながら、スコープを覗き込む。
なかなか、こっちには来ないみたいだけど……。
「そりゃあ、特攻でもしない限り最初にここに来ることはないわよ」
「と、いいますと?」
「【楽園】は、開始場所が決まっているの」
どうも、ゼニスは最初からスポーン地点が決まってる、っていうことなのかな?
「考えてることで大体あってる。そして、私たちの主な防衛がそこの防衛なんだけど……」
今回は、そんなことしなくてもよかったのにと、ヴァロッサ先輩は私に話しかける。
確かに、今回は私たちの行動をみて、どのくらいの力があるのか判断するために「先輩一人がサポートしながら自由行動」ということになっている。
でも、私の戦い方……というより母親の、戦い方がこうだったし。
私は、母親によく瓜二つって言われるから、母親を目標にするのも、簡単だった。
パパはだめ。
パパは強すぎ。
あくまでも、私でも努力で到達できるような……。
「きた」
「ん?」
先輩が返事をする前に、私はトリガーにかけていた指を押し込む。
風を切る音。
銃口から放たれた一閃の紅い光線は、そのまま侵入者の心臓を貫いて吹き飛ばす。
「……うわぁ」
距離としては大体……1キロメートル半くらい。
ガラスが砕け散るようなエフェクトとともにフィールド外へテレポートした生徒を見やって、私はヴァロッサ先輩に話しかけた。
「移動しましょう」
「そうね」
あ、そのまえにちょっと待ってと先輩。
眼と閉じて地面をなでるように手を動かすと、あらふしぎ土人形のようなものが出現した。
「気配も少し残しておけば、ほら、いいでしょ?」
……一応、頷いとこ。
「みんなの状況はどう?」
「んん? 一人として吹き飛んでねぇよ」
私、理創源氷羅は隣にいる赫良くんにそう訊くと、ぶっきらぼうながらも弾んだ声が聞こえた。
「今年の新入生は優秀だな」
「総合的に、じゃなくて一部の人が優秀すぎるだけだと思うけど……」
そんなことより、ネクサスは大丈夫かな?
ネクサスはええと、零璃くんと一緒なんだっけ。
【小組制度】のデメリット、ちゃんと理解しててそれをネクサスが使うなんてね。
『片方がテレポート対象に入ったら、もう一人もテレポート対象となる』
一人歩きしそうな性格なのに、それをわざわざ選んできたってことは。
やっぱり、お父さん似なのかな?
本気で【ソキウス】を復活させる気なのかもしれないし、その場合私はどうすればいいんだろう。
あまり干渉するなって、お父さんには言われたけど結構干渉してるし……。
私とネクサスの関係を知っている人以外にはあまり教えてないけどね。
教える気もないけど。
特に、生徒会には。
「さて、一人近づいてきた……けどすぐにふっとんだぞ」
「魅烙ちゃんでしょ」
私は何でもないようにつぶやくと、そっと右手を前に伸ばすように、つき出した。
「おい、まさか」
「ちょっと小手調べするだけ。大丈夫大丈夫」
私は赫良くんに微笑むと、そのまま巨大な吹雪で形成された竜巻を、廃墟の広がる北側へ投下した。




