第30話「第1回公式試合1」
試合開始回なので少々短めに
「零璃、準備はいいか?」
今、俺たちはフィールドの中に転送されたところだ。
時間になった途端、ほぼ説明もなしに強制テレポートされたらしい。
周りは一面森だ。見渡しても誰もいないが、逆に考えれば相手が透視などを持っていない限り、こちらの姿を視認することはできないということ。
たとえば、王牙さんのように気配で人を判別するような人だったら眼なんて言うのは結局「補助的」に使われる感覚器官なだけなんだがな、実際。
「うん、こっちは全然大丈夫。いつでも能力は使えるよ」「最初に俺が言った計画は覚えているか?」
俺の質問に、零璃は静かにうなずいた。
周りにはだれも居ないが、5百メートルほど離れたところにひとの気配がする。
それに、真正面1キロメートル先にも、数十人。
まず、そこをつぶすべきか。
「とりあえず、開幕の直後に大技行くから。……たぶん姉さんも同じ思考回路だろう」
「【ゼニス】が保身に入ってなかったら、だけどね」
零璃、こういう時はおどおどしないんだな。
俺が少し感心していると、王牙さんに持たされていた腕時計状の携帯端末が鳴り響いた。
『試合開始まで、あと10。9。8……』
唐突に始まるんじゃなく、カウントダウンをしてくれるんだな。
なら好都合。
俺は自分の右手に意識のすべてを集中させつつ、左手で零璃とタイミングを取り合う。
『3。2。1』
「零璃防御!」
はじめ! という電子音がなるのと同時に、零璃にそう叫んで彼にドーム状の金属障壁を作らせる。
と、上の方から出来上がる金属の壁に足をかけて、一気に上へ。
ほう、空からみるに俺たちのいる場所は森のはずれ。 1キロメートル先は、森の中心部!
「《フロガンスト》!」
叫んでさらに自分に能力の使用を促し、俺の右手から放たれたのは氷の竜巻。
蒼い竜巻は、牙をむいて森の中心部に吸い込まれるように向かって行った。
速度がそこまで速くないというのが欠点だが、その遅さに反比例でもするがごとくその影響力は大きい。
「どう?」
「俺は大丈夫だ、零璃は!?」
地面に着地した俺は、ドームを解除した零璃の前でうずくまっている男を一人発見した。
「襲い掛かってきたから、反撃した」
「よし、場所を移動しようか」
俺は零璃が金属で、容赦なく切り付け男をテレポートさせるのを横目でみながら、端末を確認する。
どうも、零璃よりも先に誰かが一人倒したようだ。
アナウンスが『魂痕、1人撃破。射撃』と端的に説明する。
魂痕、か。
なかなか特殊な名前をしているが、いいか。
「南の方向に向かって移動するぞ」
「うん」
走る必要はない。迎撃は可能だ。
ただ、気配を伴わない攻撃だけは、やめてほしい。
『関帝零璃、一人撃破。刺突』
アナウンスも鳴った、さぁ行こう。
『ネクサス・アルカディア、30人撃破。属性能力』
俺のも遅れて発動したようだ。
しかし、俺の場合は俺たち自身も気をつけなければ。
どうしても、予定発動場所から離れているのに暴風がここまで響いてきた。
零璃が身を一瞬だけ震わせる。
「寒い?」
「大丈夫、涼しいってかんじかな」
ただ、その殺意はおかしかったけどと零璃。
少々やりすぎた感は否めないが、まあ気にしない。
このフィールドは思ったよりも広いっていうか、かなり広い。
最大6万人が集まれる場所だ。そりゃあ広い。
「前に人がいるね」
「そうだな」
俺は警戒を強めつつ、それでも前進をやめない。
と、ここで一つあることに気づいた。
すぐに防御担当であったはずの零璃をかばいつつ、俺はその向ってくる何かに対して、氷の障壁を作る。
「どうしたの?」
「違う」
これは、俺たちに対する攻撃じゃない。
俺の初手と同じ。
広範囲影響系の能力……!
その現象に、零璃が途端に息をのんだ。
同時に頭の回路が少し歪んだのか、バグったのか、一瞬フリーズを起こして目がうつろになったがそれも仕方ないこと。
なぜなら、俺たちの周りにあった植物という植物がすべて消えたからだ。
「……はっ!?」
「あ、こんなところにいたのか、二人とも」
そこにいたのは、序列順位20位の名の通り『化け物』だ。
痕猫刑道。
とひらひらと手を振る痕猫刑道は俺を見て、にやりと笑う。
はぅっと、ふらついている零璃を支えて彼を見つめる。
「ああ、今はまだ二人に手を出す気はない。僕には誰よりも先に倒すべき人がいるんだ、じゃあ」
そう言って彼は俺たちを通り過ぎ、進行方向にいた生徒たちを次々と吹き飛ばしながらもテレポートはさせず、俺たちに残していってしまった。
……神出鬼没だなぁおい!




