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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
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第28話「第1回当日3」

「あれが、今回の公式試合の会場なんだね。……なんか、私たちの時代よりも豪華だねぇー」


 隣で、俺の嫁が何やらはしゃいでいる。

 子供のようにヘリコプターの窓から外を眺め、楽しんでいる。


 もう、そろそろ40歳になるというのに、彼女の美しさは衰えを見せないどころか、どう見ても20歳後半の姿だ。

 勿論、俺も衰えていない。


 俺は、そもそも人間であるかすら怪しいのだが。


「ネクスト、どこか調子悪い? 大丈夫?」

「……冷、元気だな」


 俺は彼女の手を引いて、太ももにすとんとのせた。

 それを見て少し甘えたような、そんな顔。


「なんか、こうしてると私たちも高校生くらいに戻った気がするね」

「そうかな?」

「うん、きっとそう。仲間も誰も死なずに、みんなで幸せだったときみたい」


 あの時はいろいろあったね、と冷ははしゃいだように俺を見つめた。

 その顔を見ると、本当に20年前に戻ったような、そんな気がする。


 でも。

 あの時も、色々と問題はあったのだ。

 俺は、殺意で戦っていたのだから。


 俺の本性は、決して英雄ヒーローでも伝説でもなかった。

 冷のため、大切な人のためそれならなにをしてもかまわないと本気で思っていた、ただのクソみたいな人間だった。


「ううん、ちがう」

「ん?」

「ネクストは、クズなんかじゃない。私の前では、いつでも最高の恋人だった」


 それは冷の評価だ。

 俺自身の、自分の決して高くない人間だった。

 自分が正義だなんて全く思っていなかった。

 非人道的なこともしている。


 そんな人でも、冷という存在は、俺を見捨てなかった。

 たくさん、冷を傷つけたのに。

 それでも。それでも。


「貴方は、世界を救った。貴方は、たくさんの人の命を救った。そして、貴方はたくさんの人の心を救った」


 それのどこがクズなの? と、冷は俺に問いかける。


「貴方は神様じゃない。全部できるなんて、そう期待するのはほかの人の勝手。貴方は私を救った。国を救った。それだけで、貴方は多くの人に感謝されている。今、【伝説】の人として慕われ、【英雄】の一人としてこれからも歴史に刻み込まれる。それのどこがいけないの?」


 彼女の言葉は、見えない水となって、俺の乾いた心に沁みこんでいく。

 何もできなかったと、俺が苦しんでいるのを、少しでも和らげてくれる。


「貴方は、できることをした。それだけで十分じゃない?」


 人の心が失われつつある俺に、潤いを与えてくれるのは、彼女だけだ。

 彼女だけ。














「ふぅ、落ち着いたかな?」

「……ありがとう。また発作が来てたな」


 なでなで、と俺の頭をそっと撫でつける冷。

 その顔は、少し安堵したような顔。


 俺は、躁鬱病なのかもしれない。

 フラッシュバックしてくれるのだ。あの時の記憶が。

 頭の隅に追いやりたくても、追いやれないそんな記憶。


 この世界、今の世界を構築している大きすぎるその出来事は、俺の心を焼き尽くそうとしてくる。


「私たちの世代は終わったんだよ。もう、これからは私たちじゃなくてネクサスが、氷羅が私たちの代わりにやってくれる。世界を作ってくれるよ」


 彼女が、俺の希望なのだ。

 ……そんな存在が、ネクサスにも出来てくれるといいのだが。


「ふっふーん、あそこには王牙君と華琉ちゃんの子供もいるし、私からも門下生を一人送り込んだからね! 全然大丈夫! なの!」


 冷、うわぁ。

 本当か、それ。


「うんうん、私と結構似ているだから、ネクスト君の息子であるネクサス君は大好きになるね!」

「……お、おお?」


 色々と無茶してるな、冷。

 だが、そこも含めて可愛らしい。本当に38歳なのか実に疑わしい。

 精神面は成長しているが、その性格は何一つ変わっていない。


 恋人時代から数えても23年は経っているのに、彼女の俺に対する愛情は減るどころか何倍にも増している。

 このままだったら、きっと一緒に老後も人生を添い遂げられるだろう。


「……ネクスト」

「ん?」

「大好き、よ」


 彼女の視線が、優しい。

 やっぱり、心にしみる。


 だから、彼女はいつまでも俺の理想なのだ。





------------------------------------




「あれは、来賓用のヘリコプターか」


 俺は、ゆっくりと降下してくる白いヘリコプターを見つめながら、そっと呟いた。

 来賓の人すらほとんど来ていないこの時間、来賓としてくるのはそれも結構珍しいことらしく。


 姉さんたちも、不思議そうな顔で見つめている。


「なあ、姉さん」

「ん?」

「俺と姉さんの関係を知っている人って、この学園で今の時点、何人いるの?」


 俺がきくと、姉さんはにこっと笑って。


「すくなくとも、私の【同盟アライアンス】に所属している人は全員知ってるかな」


 と答えた。

 ということは、姉さんの同盟は大体20人程度。あと関係性を知っているのは零璃れいりと王牙さんと……数人だから多くても30人いくかいかないかってことか。


「って、私たちの両親じゃない、あれ」


 姉さんの声を聴いて、振り向くと確かに両親だった。

 全身真っ黒な服装を身にまとい、どう見ても【英雄ヒーロー】というよりはダークヒーローかアンチヒーローみたいな色合いの父親、ネクスト・アルカディアに。

 澪雫みおと同じような、改造巫女服のような胴着を来ている【剣聖】のレイ・アルカディア。いや、涼野すずの冷。


 この恰好だけ見たら、本当に父親が犯罪者のように見えてしまうのはどうなんだろうか。

 本当に怖いんだけど、特に父親。

 どうなってるのあれ。交番の前を通りがかったら真っ先に職務質問されそうだ。


「あ、ネクサスと氷羅じゃないか」


 まず、俺たちに気づいたのは親父の方だ。

 さすがというか、王牙さんにも目配せしている。


 そう、近くで見たら親父の印象というのは大きく変わるものだ。

 いい意味で変わる。まず、その服装に何か意味があるのかと思えば特にないんだが、さすが【英雄】というかなんというか、発散しているオーラから確実に「この人悪い人じゃない」というのが分かる。


 それはどんなに鈍感な人でもわかると思う。

 同時に、姉さんの【同盟アライアンス】のメンバーと零璃が無意識に背筋を正してしまう程度には威圧感がある。

 まあ、家族にはあまり効かないんだけどな。



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