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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
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第26話「第1回当日1」

 第1回、天王子学園公式試合当日。

 天王子学園の校門に、今。

 俺と零璃は立っていた。


「ふむ。時間よりも結構早くきちゃったな」

「そうだね。……あ、八神やがみ王牙おうが先生」


 校門に立っていたのは、なんというか。

 俺たちを不思議そうな顔で見つめている、王牙さんだった。


「お前ら早い。なんで2時間前には着いてるんだ」

「てへ」


 ちなみに、今てへって言ったのは勿論俺ではなく、零璃だ。

 零璃、戦闘前の緊張を少しでも和らげようとしているのか妙に元気。

 そしてそれによって、男である零璃には必要のなさそうな【可愛さ】という要素が彼女に付与されている。


 ……今素で「彼女」って言っちゃった。そろそろ俺は正しい判断が出来なくなっているのかもしれない。

 さすがにやばい。もう俺も末期か。


 何がだ。


「まあ、早く来てずっと待っているのもなんだし、先に現場へ行こうか?」

「そんなにぱっぱといける場所にあるのか?」

「ないね。しかし、時間を無駄にすると言うのも良くないことだ」


 王牙さんはそう答えると、俺と零璃についておいでと手招きする。

 ついて行った先は校庭で。


 そこには。


「……ヘリコプターか。しかも日本の自衛隊が使っていそうな輸送用」

「そうだな。……ここ刃夙ハツト島から、南下して試合会場まで先に行こう」


 零璃が、ヘリコプターを見て顔を青ざめさせていたのは、彼が高所恐怖症だからなのだろう。

 それにしても、本当に先にいっていいんだろうか?


「いいのいいの。さ、乗った乗った」


 先に零璃を押し込み、次に俺が乗り込む。

 確かに、中には待機しているメンバーも誰もいない。


「酔わないんだったら、一応ガイドブックがあるから読むといい。……あ、私とこの子たちだけ先にお願いします」


 零璃は高所だめだから、ものを読むなんてもってのほかだろう。

 しかしなれるしかない、というのは結構残酷なものだな。

 彼の手が前と同じくらいふるえているため、俺は零璃に手を伸ばした。


「……ん、なんか初めて出会った時みたいだね」

「そうだなー」


 あのときは、まさか今一緒に輸送用ヘリコプターに乗って同じ【小組ファーチ】で戦うことになるとは考えもしていなかっただろう。

 人生というものは分からないものだな。


「さて、最終確認いくぞ、零璃」

「う、うん」


 少々不安だが、大丈夫だろうか。

 今そんなことを気にしても仕方がないし、とにかく俺は続けることにした。


「【小組ファーチ制度】のデメリットな。……片方がテレポートされた時点でもう片方もテレポート……にはならないけど、俺が撃破された時点で零璃もテレポートな」

「つまり、ネクサス君をボクが守ればいいのかな?」

「いや、基本的に零璃は自分の身を守ってればいい」


 えっ、と零璃が首を傾げた。

 ちょっとその顔やめてくれ。何かに目覚めそうで怖い。


「【小組ファーチ】のメリット、撃破したら二人の共有ポイントになる、だろ?」

「うん」

「俺が寄せ付けないくらいに倒せばいい」

「大きく出たねー」


 正直、広範囲に作用する俺の能力では、そちらのほうが好都合。

 だから、零璃には自分の身を守ってもらうことにしよう。


 基本的には。


「で、ボクの判断でネクサス君が危なくなったら楯になればいいかな?」

「それは零璃に任せる。無理だと思ったら別に放置でもいいし。……その間に俺はとりあえず、3桁は行くようにがんばってみる」


 3桁行く、というのは勿論100人以上の撃破という意味だ。

 もちろん、攻撃だけではなく「俺たち」が「何を」して戦況に「どのような」影響を及ぼしたのかが評価される。


 だからこそ、ここは零璃の鉄壁を主張しなければ。

 それに、上級者は「あの」能力を使える人もいるだろうし。

 早い人は1回目で花が開く、とも聞いたことがある。


「ん、何考えてるの?」

「……能力者をさらなる高みへと導く能力について考えてた」


 すごい言い方をするね、と零璃は苦笑する。

 少しだけ、顔色も良くなってきた。

 高所への恐怖症を、こちらの会話に集中させる。それが成功したようだ。


「一番最初に目醒めそうなのは、ほかならぬ零璃だけどな」

「んぅ? そうかなぁ」

「零璃、自分の『特殊能力』値を忘れたのか?」

「あっ」


 つまりはそういうことである。

 勿論、俺みたいな努力で這い上がってきた人よりも。


 何倍も、先天的に優れた才能を持つ方が。

 この世界では、優遇されるに決まっている。


「なんか、理不尽な感じがするけどなぁ」

「いや、俺はそれで合っていると思うぞ」


 元からの能力が高い人は、そもそもの伸び幅が広いのだ。

 そりゃあ、伸び幅を無理矢理のばした人よりはもっと成長できる可能性を秘めているし、実際もっと成長できる。


 先天的な才能を持ちながらも、努力した父親は。

 だからこそ、【伝説レジェンド】なんていう大層な異名をつけられることも、そして世界を救うことも成功したのだ。


「あれ、悲観的にならないんだ」

「俺には【伝説】と【剣聖】の血が流れている。万が一花開いたときに、すぐに順応できるようにすればいい」

「ポジティブ! 凄くポジティブ!」


 よく言われる。

 正直、そうでないとやっていけない。


「正直そんなことよりも、今日は澪雫みおが気がかりなんだよなぁ」

「ん?」

「何かやな予感がする」


 そして俺の予感はだいたい当たる。

 ……澪雫、何もなければいいんだが。


「考え過ぎじゃないかな。……澪雫さん、ネクサス君が思っているよりもずっとしっかりしてるんだよ」

「そうか? ……それもそうかなぁ」


 絶対に何か起こしそうな予感しかしないんだが。

 ……これが思い違いであったら、いいんだけど……。


「あれ? ネクサス君てそんなに澪雫さんのこと気にかけてたっけ?」

「……いや、最近な」

「まあ、可愛いしいいんじゃない?」

「話が飛躍しすぎたぞ今」


 本気でビビった。

 急に何の話をしているんだろうってなった。


 と、零璃は俺の方を向いて悪戯っぽくウィンクをする。


「それとも、ボクと付き合っちゃう?」

「喜んで、じゃなくて。……いや、零璃男だろ」

「でもよく考えてみて、赫良かくら姉ちゃんとボクならどっちがいい?」


 どうみても男の女と、どうみても女の男ぉ?

 判断基準おかしくないか?


「じょうだんだよぉー」

「知ってるけど、どうしたんだよ」


 急にからかいたかっただけ、と零璃は笑い。

 でも、と言葉を続ける。


「澪雫さんも、魅烙みらくちゃんも、ネクサス君のこと好きだと思う、なぁ」

「……そのくらい分かってるよ」

「あ、やっぱり分かってた」


 まだ、そのときじゃないから俺は何もいわないし。

 今は、まだ今のままの関係でいいと思っているから。







 ……うん、大丈夫なはず。


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