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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
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第25話「第1回前日」

「今日は練習をやめて休もう」

「えっ、大丈夫だよボク」

「明日に疲れを持ち越されても困るし、たったこの数日で零璃れいりは強くなってると思うよ、格段に」


 二人で占領しているいつもの訓練場で、零璃が来て早々俺はそういった。

 対して零璃は少し不満げ。

 今日も訓練したかったのかな?


「無理は禁物だ。……そうだな、どこか飯に行こう」

「えっ」

「俺の奢りで」


 ほぼ強引に俺が話を進めると、零璃はうーんと少々考えた後にこく、と頷いた。

 近くのファーストフード店でもいいが、こういう時は彼女……じゃなかった彼に好きなものを聞く方がいいだろう。


「零璃は、何か食べたいものとか有るか?」

「えーと」


 ちょっと考えて、零璃は結論を出す。

 それは俺の最初考えていた行き先と、同じところだった。


「ハンバーガー食べたい!」





 さすがに、ファーストフード店のハンバーガーもちょっとアレだったから、俺はハンバーガーレストランの方にやってきた。

 『天王子学園』のある『刃夙ハツト島』、その一角にある商店街の片隅に、その店はあった。


「時間はあるから、ヘリコプターで一回都心に行っても良かったんだけどなあ」

「いいのいいの。って、こっち高級な方じゃないの?」

「人が少なくていいだろう?」


 ……う、うん。と頷きかける零璃。

 人の金だから、遠慮しているってところもあるんだろうが。

 そもそも、おごらなくてもいいくらい金は有るんだけどな? 俺も零璃も。


 まあ、いっか。


「零璃、何が食べたい?」

「んー」

「遠慮はいらないから」


 じゃあ、これにしようかなと零璃は注文し、俺も違うものを注文する。

 店員さんに、「可愛い彼女さんですね」と言われたが、付き合っている付き合っていない以前に零璃は女ではない。

 しかし、こんなことをいっても野暮が増えるだけだと判断した俺は「ただの友達ですよ」と返した。

 零璃もそれでニコニコしている当たり、これで良かったのだろう。



 席に着いてハンバーガーがこちらに届くのを待つ。

 ファーストフード店とはちがい、比較的くるのが遅いがまあいいだろう。

 時刻にして夕方の5時半、まだ店内には俺たち以外に勉強会をしているっぽい女子生徒数人しかいない。


 が、次の瞬間。

 レストランの自動ドアが開いて、明らかに違う冷気がこちらに迫ってきたではないか。


「えっ。なに今の」


 零璃もその気配に気づいたようだ。女子生徒の方を見てもビクゥ!と全員が反応している。

 このオーラ、冷気。


 あ、誰か分かった。


「って、ネクサス、こんなところにいたの?」

「……やっぱりそうだよ、母さん」


 ふふ、と目を細めて笑う【剣聖】涼野すずのれい

 向かい側で零璃がなにやら興奮した顔で見つめているが、前も出会っただろ?


「で、こっちは彼女さんかな、と思ったけど零璃くんかー」

「こんばんはー」


 うーん、幼く感じる。

 これでその異常なオーラと冷気を引っ込めて、天王子学園に何食わぬ顔で入っていったら生徒って認識されそうで怖い。


 あー、でも顔でバレるか。

 写真集だしちゃったしなぁ、この【剣聖】さん。

 その美しさにいろいろ、出版社とかが取りざたしてるけど、いいのかねぇ。

 母さん、自分の身分分かってる?


「明日の来賓?」

「うん、そうだね。ちなみに天王子学園の公式試合は、今回初めてかなぁ」


 大規模のはほとんど見ないんだよねーと母さん。

 どうも、最高でも見たことのあるものは5対5までらしい。


 なぜ? と聞いたら学生時代苦手だったから、と返された。

 近接特化の【剣聖】が、多対多のものを得意とする訳ないか。


「貴方のお父さんは凄く強かったんだけどね」

「強くなかったら俺に対する期待は何だってなる」

「そうだね。……最近、澪雫みおちゃんとはうまくやっていけてる?」


 澪雫、かぁ。

 いろいろと有ったけど、あの子ちょっとチョロすぎやしませんかねぇ。


 などということを説明したら、くすくすと笑われた。


「彼女は自分が『属性能力』を先天的に使えないってわけじゃないからね……。私は先天的に弱かったけど……」

「だから、俺に嫉妬していたって事?」

「うん。でも、ネクサスはお父さんと違って死ぬような思いをしながらも手に入れた力だものね」


 確かに、能力の延び幅はあるけれど最初は弱かった俺。

 親父に頼んで強くしてもらったけど、確かに訓練していたころは本当に死にかけたこともある。


 と、俺の壮絶な状況を聞いて零璃が目をぱちくりさせていた。

 ちなみにハンバーガーをもきゅもきゅ、と食べているその状態で、である。


「どうした零璃」

「いや、なんでもないっ」


 うーん、何があったのか俺は分からないが。

 母さんは、すべて分かっているような顔をしているからなぁ。


 と、母さんは時計を確認。

 いけない! と立ち上がった。


「時間だぁ。じゃあねっ!」


 そして退散。

 えっはやっ。


「風のような人だったね」

「……形容するなら、吹雪のような人だけどな」


 零璃、すげーもきゅもきゅしながらハムスターみたいに食べてる。

 可愛い。


 男だってことを一瞬で忘れてしまいそうになる程度には可愛いんだが!


「今度、お返しにボクが何か作ってあげる」

「飯?」

「うん」




 ……女子力まで高いのか!

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