第20話「学園説明回2」
この人が。
この人が、学園20位の一年生か。
俺はまじまじと洸劔に紹介された少年を見つめた。
背丈はかなり小さく、俺よりも20センチメートルほど小さい。
そう、ちょうど肩かそこらへんである。
そして、童顔。
とてもじゃないが、16歳には見えない。
普通に考えて、13とかそこいらの顔をしている。
「どうも、さっきも紹介にありました、痕猫刑道です。ところで、君があの【伝説】の息子なのかい?」
この人が言っている【伝説】とは、十中八九【神羅の伝説】、つまりは俺の父親のことを指しているんだろう。
アルカディアという名字に反応しているところから、それしか考えられないのが正直な話である。
そしてこの人、声まで高い。
女、には聞こえないがどこか幼さを感じさせる。
「それが【神羅の伝説】を指しているんだったら」
「おお! おお!」
何で興奮しているのこの人。
有名なのは父親であって、俺じゃないんだが。
俺は実力が不足しているし。
「是非会ってみたいって思ってたんだよ」
「……お、おお?」
若干俺が引いていると、洸劔が察してくれたのかどうどう、と痕猫刑道の手綱を引っ張ってくれた。
よし、絶対にその手綱を放すなよ! 絶対だぞ!
「……ちょっと落ち着いた。……えっと、第1開校式試合の話をしていたのかな? 僕はソロで頑張ってみるつもりだ。自分の実力を実戦で試してみたいからね」
「お、ならソロ同士じゃん」
おう、俺もソロだ。そう俺がいう前に洸劔が口を挟んだ。
「ま、俺は団体だけど」
「「うん、知ってる」」
でしゃばり過ぎじゃありませんかねぇ!
俺はそんなことを心の中に秘めながら、噴き上がってくる感情を必死に押さえつけた。
ちなみに、痕猫刑道は完全な才能型だという。
うん、澪雫が存在すら嫌う人種だ。
洸劔はどうかって?
彼はとある特殊な訓練を受けて能力値を上げているため、彼も努力型である。
「……ということは、この三人は全員が自分で異名を決められるのか」
「そうだなー」
「僕は【冒険者】にしようと思っている」
ほぉ、格好はつくな。
由来として、幼少期から世界中を旅してきたかららしい。
中学生になるころには、一人旅を繰り返してきたというのだから驚きである。
「一番命の危険を感じたのは、急に抗争に巻き込まれた時かな?」
完全に修羅場じゃないか。
「俺は【不死雷】かな」
きたー!
そして痕猫刑道、一切動じず!
これがこの世界の一般的なネーミングセンスですよみなさん!
俺がおかしいってことくらいわかってんだよ!
「で、ネクサスは?」
「どうしようかなって考えてる」
うわー優柔不断。
痕猫刑道と洸劔が俺にいう中、俺は別の意味で悩んでいた。
どうやったら、あんな痛いのを付けられるんだろうか。
「ほらーここできめちゃいなよ」
「本当本当」
ここで決めても、なぁ。
そんなことを思いながら、俺は頭を悩ませるばかりだった。
「へぇ、まだ決まってなかったんだ」
「魅烙は決まったのか?」
休み時間が終わり、王牙さんが説明を再開している。
今は毛髪を含めた校則について。一番退屈でしかし大切な説明ともいえる。
そんな説明を聞き流しつつ、俺は異名をどうするか決めていないことを隣の席にいる魅烙に呟いたところ、さっきみたいな返答が帰ってきたというわけだ。
「魅烙? 魅烙はねー、ママの異名を一部引き継ごうかなって思ってるよ」
「ということは……」
「そ、【業炎姫】を改変しようかなって」
あっはい。
絶対にいたくなること間違いなしだな。
それにしても俺の異名、本当にどうしよう?
本当に、コレが苦行だな。
なんで俺はほかの生徒みたいに、普通の考え方をしていないんだろう?
「毛髪についての校則は特に定められてない。それはわかるとおり、能力者の髪色は非常に多様だからだ」
と、俺は逃避するように王牙さんの説明を聞くことにした。
毛髪の話か。
確かに能力者の髪というのは不規則だな。
ある程度の法則性があって、属性のイメージカラーに則った髪色が多いには多いけど。
たとえば魅烙とか。属性が【火】だから赤、というのはいかにもな感じがする。
しかし、例外というのはもちろんある。
というより、例外の方が多い。
「服装も基本的に自由だが、実技授業が多いから、出来るだけ動きやすい服装で」
アライアンスの抗争に巻き込まれたら味方はいないし、と王牙さんは物騒極まりない言葉をぼそっと吐いた。
まあ、妥当だろうな。
生徒人数が多いことに反比例して、教師の制御がきかないって言うのは当たり前だろう。
それでも、教師は威厳を保つために王牙さんや烏導先生を送り込む。
「さて、基本的な話は終わったが。……何か質問は?」
王牙さんに、はいっと手を挙げたのは痕猫刑道。
俺よりも前に座っているので顔は見えないが、誰もがその体中から放たれる「何か」には気づくだろう。
「序列1位になるもっとも早い方法は?」
「……いきなりそういう質問がくるか、痕猫刑道。一番早いのは、序列1位に連続で5回以上勝つことだな」
この人が!? と周りの生徒がざわざわと騒ぎ始める。
1年生最強の人がこの人だとわかれば、だれだって騒ぐと思う。
現に、澪雫や零璃たちもヒソヒソとはなしをしていた。
そして、だれも気にしていないが王牙さんの言ったこともとんでもないことだ。
この学園には【決闘】って名付けられた、日本の法律をガン無視したような制度があるが、それで糧って言うことか。
しかし、連続5回、か。
確かに5回も勝ったら偶然と思えないからな。
「あの人って、さっきネクサスくんが話をしていた相手……?」
「ん、学園長の息子さん」
魅烙に質問され、俺が答えると彼女は「どうりで」と納得した。
彼女も「痕猫」という名字に反応したんだろう。
「あのひと、強いね」
「わかるのか?」
「ん」
魅烙は静かにうなずくと、何かを見透かすように痕猫刑道を見つめる。
と、顔を上げて俺に一言。
「能力だけでいったら、あっちの方が強いんじゃない……かなっ」
「そりゃあ、1年生最強だからそうなんじゃないか?」
しかし、それには首を振る魅烙。
どうやら、運やそういう系の話になってくると見たところ俺の方が上らしい。
「能力だけ、単純に見つめて数値化及び順位化下のが最初の試験。これからが本番、だね」
「だな。魅烙も頑張れよ」
うん、と魅烙はうなずくが。
その顔は、何ともいえないほど不安に満ちていた。
「ん、どうした?」
「……ううん、大丈夫」
どうみても大丈夫じゃないんだが。
「……あとで同盟の【楽園】いかなきゃいけないから、今日は一緒に帰れない」
「うん、わかった」
勧誘、の様子見でも俺はしようかな。
訓練場にいって、見学するのもいいかもしれない。
「澪雫は、……【同盟】か」
「はい」
「零璃はー?」
「ボクはネクサス君と一緒にいこうかな」
お。よかったよかった。
さすがに一人は心細い。
「でも、零璃も勧誘されそうだよな」
「え?」
「魅烙と同じところに」
「ああー。……断っちゃった」
えっ。
俺と魅烙が同時に彼女……じゃなくて彼の方を向く。
澪雫は事情をわかっているようで、静かに黙っている。
「たぶん、魅烙ちゃんが勧誘を受けているころに姉ちゃんに勧誘されて。……少し様子を見るって断った」
案外、芯はしっかりしているようである。
6万文字過ぎてもまだ時間経過1週間。
お、おそい!
第一回公式試合が終わったら一気に加速すると思います。




