第199話 「これからの未来へ」
「次は頼んだぞ、朱鷺朔。来年の天王子学園は、任せた」
「はい、先輩。……最初の方は、申し訳ありませんでした」
卒業式の日、証書を受け取った俺達【ソキウス】は、拠点の屋上に集まっていた。
ゼニスになったあの日から、月日はすぐに流れ、もう3月、か。
俺は、ちらりと後ろを振り返り、去年入ってきた新入生たちを見やって軽く笑う。
来年度も安泰だろう。
結局、俺が頂点を勝ち取ってからは誰も俺に勝てなかった。
俺がゼニスになった当時の異名をとって、俺は【蒼氷のゼニス】と呼ばれ、天王子学園は多くの改革を経て、よりよいものになったと思う。
俺があまりにも無敗を誇っていたから、先ほど……朱鷺朔に卒業生代表の挨拶でゼニスを任せることを発表したばかりだけれど。
目の前の彼の顔つきは、過去とは違う物になっている。
朱鷺朔青崙は、強くなった。俺に匹敵……とはいえなくとも、俺達が卒業すれば間違いなく学園最強だろう。
彼になら、任せられる。ゼニスになった俺をずっとそばで見続けてきてくれた、着いてきてくれた彼なら、その希望はあるだろう。
俺は朱鷺朔に返事をする。
「気にしなくていいって」
「これからは、どうするので?」
これからの自分の心配ではなく、飽くまでも俺の心配か。
本当に青崙は変わった。リーダーとしての資質もあるだろう、能力戦闘の素質もあるだろう。
俺は、彼に多くのことを教えなかった。常に背中を見せ続けることで、それを学ばせようとした。
時には失敗もするけれど、最終的に強い能力者になって欲しかったから、何度でも訓練で彼を打ちのめした。
何度も彼を引き離し、吐かせた弱音を飲み込ませるまで蹂躙したこともある。
それでも。彼は俺に感謝しているという。嘘偽りなく、俺の目を見て先ほどそう言ってみせたのだ。
「王になる可能性は捨てたからなぁ。……俺は冒険家になるよ」
「そうですか。……それ、趣味じゃないです?」
「うん、趣味。この世界には、普通の人間は愚か、能力者ですら新入が難しい場所が多数あると聞く」
結局、俺は父親を超えられていないのかもしれない。
能力的にはどうしても不可能だった。心の強さは……次第点、と認めてくれた。
でも、まだまだ時間はある。
朱鷺朔は、後ろにいる澪雫達を見やってからもう一度、困ったように俺に話しかけた。
「それは構いませんが、2人の妻を大切にいたしませんと」
「分かってるよ、朱鷺朔。……それと同時にやろうかと考えていることもある」
「と、言いますと?」
俺は笑った。
強者の笑いと、判断できるかもしれない。
少なくとも、これは勝者の笑いだ。
野望を一部達成した、能力者の笑い。
「国際的な便利屋を作ろうかなと考えてる。能力者の助けになるならなんでもするような、ね。結社に近いかもしれないが」
「俺に就職先が見つからなかったら、その時はおねがいしますね」
冗談めかして言う朱鷺朔に、俺は大真面目な顔で頷く。
何時になるかわからないが、作ろう。より良い未来の為に。
アルカディア王国は恐らく、これからも永遠に栄えていくことだろう。始まりがあるものは、終りがあると言われるが……。
俺たちの父親は、あれだからな。簡単に終わってはくれそうにない。
「ああ、そうしよう。……スローネも、七星もな」
俺は、朱鷺朔の隣に並んでいる2人の少女に目を向ける。
結局、俺達よりも1個下の学年のメンバーは3人、その次も4人しかいない。
でも、これで問題はない。この3人でも、そのへんのアライアンスなら全員掛かって来られても無双出来るほど強いのだから。
伝説として、次を続けられなかった父親達の【ソキウス】とは違う、俺たちのアライアンスは、俺の子がここに入学するまで受け継がれるだろうか。
楽しみだな。
「ん? 七星?」
と、考えに浸っていると七星の様子がおかしい事に気づく。
どうも様子が変だ。顔は赤いし、どこかもじもじしているような印象。
俺は特に追求せず、なにか言いたそうな顔をしている七星を待つことにする。時間はたっぷりある。
ゆっくり……と言いたいところだったけれど。
意を決したのか、七星がその小さな口を開いた。
「ずっと、すきでした。叶わない恋とは分かってても、ずっと、ずっと」
「ん。俺も七星のこと好きだよ。スローネも、朱鷺朔も。ずっと2年間、俺を支えてありがとうな」
まずはみんなへ。一気に安堵したのか、七星がやっと笑顔を見せたのを確認して、追い打ちをかける。
そんなこと、ずっと前から感じていたことだ。朱鷺朔に迫られながらも、拒否して俺を思い続けてくれたのは本当に嬉しい。
思えば、何度か2人ででかけたこともあった。
それらも、大切な思い出だ。
「特に七星。……卒業したら、アルカディアに来ると良い」
「それは」
「こちらの【騎士団】に空きができた。望むなら、迎えよう」
アルカディアの代々を守り続ける13人の騎士。
それは代々、18歳になった次代が集めても良いことになっている。
前代は、強かった。
なら、今代も。それに見合った強さにしよう。
アルカディアには俺の母親も、澪雫もいる。
涼野流剣術の元になった【無名の絶剣】、ラストさんもいる。
もっと、もっと。
七星は強くなれる。
彼女が望むなら、俺は彼女を拒むことはないだろう。
「はいっ!」
「澪雫、魅烙。学園生活は楽しかったか?」
「ええ、もちろん」
「うん、楽しかったよ」
朱鷺朔たちと一旦の別れを告げ、俺は空港に向かう道のりを澪雫と魅烙との三人で歩いていた。
彼女たちに感想を聞く。そして、これからの自信も訊く。
「これからの生活、楽しんでいける自信は?」
その返事は、なかったけれど。
顔が、返事代わりになっていた。
「なら、歩き始めようか」
俺は一度だけ空を見つめ、そして前を向く。
この先、何が待ち受けているだろうか。
それは、この後じっくり体験していくとしよう。
「未来へ」
未来は、常に前にある。
この作品、2014年から更新してたんでもう2年になるんですね。
長い間、お付き合い下さりありがとうございました。
更新が最後の方止まっていた原因は、戦闘シーンがやはりというか、納得できていなかったからです。
最終話はすでにできていました。本当は後日談もあったんですが、それも納得がいかなかったのでボツに。
この作品も約38万文字のものになりました。
書き続けられたのも皆様のお陰です、本当に有難うございます。
では、また会いましょう。
次の彼等の登場は、このシリーズの次代。「初焉終のヴェルザンド」にて。
予定は未定ですが、また書き続けるので。
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