第196話 「決戦朝」
お久しぶりです。
ついに完結直前の1戦です。
「おはよう、澪雫、魅烙」
朝、目を覚ますと左に澪雫、右に魅烙が俺の腕枕によって眠っている。
これが両手に花。言葉通りの光景だろう。
澪雫はどこか幼さの残った寝顔で、俺の腕に抱きついていた。長いまつ毛は特に顔を近づけなくても分かり、雪のように白い肢体と共に彼女の美しさを際立たせている。
魅烙はなんというか、清楚的な美しさというより甘美な……妖艶な美しさが目立っている。胸は全くと言っていいほどないけれど。全くと言っていいほどないけれど!
「んふふ」
「にゃふ」
2人が呆けたように目を開け、俺に甘えるようにして雪崩かかる。
その様子を見て、やっぱり最高だなぁと考え、両手で2人を同時になでた。
猫が甘えるような声はやっぱり耳にいいものだ。……ずっとこうやってなでて、甘やかして暮らしたいなぁ。
「って、こんな場合じゃない!」
俺は大切なことを思い出して、飛び起きた。
今日はゼニス決定戦じゃないか、何いちゃついているんだ俺は。どうやって姉さんに勝てばいいんだよぉ!
「もう昼前!? 朝の鍛錬と最終調整全くしてねえ!」
俺が泣きそうな顔で準備をしていると、魅烙が眠い目をこすりながら俺を怪訝な目で見つめているではないか。
何でそんな顔をしているんだ。何も心配事がないのだろうか。
俺はこんなにも姉さんとの対戦を大戦として捉えているというのに、何も考えないのか。
「落ち着いて、ネクサスくん。あなたは今のままでも十分強いから」
「そういう意味じゃなくてだなぁ」
澪雫もなんだかんだ、慌てていないようだ。
目の前で恥ずかしげもなく寝巻きを脱ぎ落とし、着替える様子は眼福。
なんていうわけではなく、俺としては何故慌てていないのかと絶句したい気分である。
「頂点を勝ち取るために、神力を使えば問題はないのですよ」
「確かにそうだけれどな?」
彼女に同意しながら、俺はでも……と嫌な予測を立てる。
俺の持っている神力程度では姉さんに届かないかもしれないという予測だ。
出来れば外れて欲しい。
やっと、ゼニスが手に届く場所に来たのだ。この試合は負けたくない。
急いで鍛錬場へ向かい、数分後遅れて準備のできた2人に声をかける。
「よ、よし、準備完了だ。最後の組手、手伝ってくれ」
「2人同時で?」
「勿論だ。……さぁこい」
ここで消耗しすぎるのもアレだが、何も準備しないで身体を慣らさないのはもっとアレだ。自分から勝機を逃すのも良くないだろう。
俺は構え、澪雫は刀を、魅烙は拳銃。
1対2の最終調整は、いまから始まる。
「ついに、この日が来た」
「私は準備完了。あとは悠然と余裕を持って、ネクサスを出迎えるだけだね」
私……氷羅は、すでに会場に入っていた。
今日は弟の成長を見られる日。私もメンテナンスが終わったし、きっと最高の状態で彼と戦える。
思えば、正確には人間ですら無い私を姉としたってくれたネクサス。
そのお返しがこれっていうのもどうかなと思うけれど、今回は手加減をしない。
出来るだけ、いい試合にしたいね。
隣に居る陸駆くんは、何故かうなだれているけれど……なんでさ。
「……認めてくれなかった」
「今それ、いうことかな?」
多分、王国に行った時お父様に「まだだめ」って言われたのが原因なんだね。
まだ、ってことだからもっと防御だけじゃなくて……攻撃もなんとかしようね、とアドバイスをしながら頭を撫でる。
「まだまだチャンスは有るよ」
「……そうか?」
私は一見幼女とそう変わらないんだけれど、陸躯君はもう大の大人だ。
とても17歳には見えないし、流石に1回この状況で一緒にデートに行ったら通報されたことがある。
駆けつけた警察は私の証言を信じなくて、結局どうしたんだったっけ?
……そうだ、神鳴家当主さんがやってきたんだった。あの時の警察の顔はすごかった。
唇は真っ青を通り越して紫色に染まってたし……。
「お父さんが永遠の王になれば、下の縛りは少なくなるものね」
「そう、か」
それなら本当に良いのだけれど、さてどうすれば良いのかな?
ゆっくり、王者の風格を出すために……ゆっくりと勝ちに近づけますか!