第195話 「小さな祝勝会」
結果的にどうなったかといえば、俺が勝った。
刑道は燃費が悪い。ずっと大技をぶっ放して俺を襲っても、俺が攻撃の速度よりも速いスピードで避けまわれば問題はなくなっていた。
「脳筋の負け、ってことか」
肩で息をしながら、負けを認めた彼はそう呟く。
ソレに対して俺は何も答えなかった。能力の数値が拮抗していれば、脳筋のほうが勝っていたという可能性も有り得る。
でも、物量で攻められても、俺はそれに対応できた。
ただそれだけのこと。脳筋が悪いだなんて俺は全く思っていないし、最後まで俺と刑道「ソキウス」の2人が勝ち残ったことは純粋に素晴らしいことなのではないかと、考えてしまうのだ。
「また戦おう、刑道」
「ああ」
膝をついた彼に手を伸ばし、俺は頷いた。
そして、姉さんの方を見つめる。
姉さんは、全ては予想出来ていたような顔をして俺の方を見つめていた。
「やっぱり、ネクサスが来るんだね」
「うん」
「いいよ」
姉として、ヒョウラ・アルカディアが相手をします。
この言葉で、やっと彼女が俺の姉だということに気づいた人は思ったよりも多かった。
もうみんな知っているものだと思っていたから、逆にこっちが驚く。
そんなにみんな鈍かったのか。びっくりだぜ!
「手加減なんてしないから、覚悟なさい」
「姉さんがそういうのなら、そうなんだろうね」
姉さんの顔を見つめる。その目は厳しくも美しく、陸駆さんが一生を捧げたくなるのも分かる気がした。
だけど、負ける訳にはいかない。俺は親父のようになると決めた。
決して王にはならないけれど、親父が永遠王になると決めたのだったら俺はその時まで、世界を旅して知識を蓄えよう。
「お互い全力で臨みましょう」
そういうと、姉さんは背中に真っ白な翼を生やした。
翼は3対。それを羽ばたかせ、上空へ消えていく。
そんな彼女を、俺達は唖然として見つめていた。
「とりあえず、おめでとうございます」
夜、俺は魅烙と澪雫との3人だけで簡単な祝勝会をあげていた。
同盟リーダーの寝室で両手に花。良いです。
流石に未成年だから、清涼飲料と。
澪雫と魅烙が作った料理だけだけれど、俺は凄く感謝してる。
「ここまでこれたのは、二人の力が強いと思っているよ」
「いえいえ、そんな」
決して全てが彼女たちのおかげではない。勿論父さん達のもあるだろうし、神御裂姉妹、ルナナたちも助けになってくれた。
けれど、俺の救いはこれだけじゃなかった。
俺を支えてくれる人たちがきちんと居た。
その中で、心の支えになってくれた人。
本気で好きになって、愛せる人。
それが、この二人だった。
「そうだよネクサスくん。私たちはずっと一緒だよ?」
魅烙が左側から抱きついてきた。澪雫は右から。
完全に天国だ。このまま昇天したら怒られるだろうか。
怒られそうだな。
「そういえば、ネクサス君は王にならないのですよね」
「うん」
「どうするのです?」
「……冒険者になりたい」
俺は自分の将来を口にした。
それを彼女たちは真剣に聞いてくれた。
少なくとも、王になる心配が無くなったら一生遊んで暮らしたっていいだろう。
でも、それでは落ち着かない。
出来るものなら、忙しくしていきたいし。それを父さんに相談したら「なら能力者関係の遺跡の調査を頼む」と。
どうも、この世界には未発掘の遺跡がたくさんあるらしい。
「私達も同行しても?」
「……勿論だよ」
流石に城に置いていくのは、俺も寂しいしな。
あと5話で完結は無理ですね……