第193話 「頂点《ゼニス》への生き残り戦 1」
「勝ち逃げのような形で、学園を一時的に休んでしまい、申し訳ありませんでした」
全学園の生徒のうち、殆どが集うスタジアムの壇上で、ぺこりと頭を下げるのは俺の姉であった。
最強の帰還、と誰がいっただろうか。聖女の凱旋、とだれが表しただろうか。
俺には個人を特定などできなかったが、そんなことはどうでもいい。
となりで、澪雫がこちらを見つめている。
「どうした、澪雫」
「いえ、なにも」
彼女はそういったが、恐らく俺の表情についてだろう。
「私は心配です。無理をするんじゃないかなって」
「無理はしないよ」
壇上では、「どう責任を取る」とか「勝負が怖くなったのか!」とかヤジが飛ぶ中、姉さんがマイクを持って淡々と処置について説明をしていた。
嗚呼、かなり顔色が良くなった方だと思う。
「今からここで、次期ゼニスの選抜を行おうと思います」
言葉に、全学園生徒が口を噤んだ。
声が完全に消えたスタジアムで、姉さんは言葉を続ける。
「ルールは簡単です。【ゼニス】になることを希望する人以外は観客席へ。希望する人はここに残ってください。希望者全員で生き残り戦を行い、勝利者と私が、明日の正午ここで、戦います」
簡単でしょう? と問う彼女に、声をあげる人は誰もいない。
いや、一人いた。俺に問いかける澪雫だ。
「では、私は観客席へいきますが。ネクサスくんはどうします?」
「無論残るよ」
澪雫も参加すればいいのに、と提案してみたが。澪雫はすでに観客へ行ってしまった。
彼女を皮切りに、他の生徒も多くが観客席へ向かっていく。
それにしても、こうみると志願者っていうのは少ないんだな、と。
「200人くらいか」
6万人も生徒がいるというのに、残ったのはそれだけか。
思ったよりも臆病者が多いらしい。
まあ、仕方ないか。
「刑道」
「ネクサスは最後だ」
目の前にいる小柄な少年は、俺にそう言ってくるりと踵を返す。
「後ろは任せた」
「後ろから刺されるぞ?」
「それは困る。楽しみがなくなる」
その声は、本気だな。
ならいいか。俺も半分手伝うことにしよう。
「皆さん準備はいいですか?」
一泊置いたあと、スタジアムに光が充満した。
ーー
「うーん、やっぱりあの二人かぁ」
壇上でつぶやいたのは、氷羅であった。
目の前で行われている、試合というよりは殺し合いを、じっと見つめている。
「あのね? 何人でかかってこようとも、ここは無理だよ?」
隙を見て自分を、襲撃してくる生徒たちを蹴散らす。
そもそも、氷羅自身は1歩も動いていない。薄く彼女に張られた吹雪の壁に、誰もが圧倒されている。
「貴方たちじゃあ、やっぱり力不足なんだよ」
そう言い捨てると、再び戦場に目をやった。
彼女の目には、広範囲攻撃で他を圧倒する2人の姿が写っていた。
「ほらほら、あそこに突っ込んでいったほうが。チャンスはあるんじゃない?」