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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第5章
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第192話 「夜闇の二人」

「……んぅ」


 隣で澪雫みおが、甘美な声を口から小さく漏らした。

 闇の中、俺はどうとすることもなくそれを静かに見守り、彼女をそっと抱き寄せる。


 生命の灯火が、今の彼女には強く宿っている。ちょっと前の彼女とは大きく違う。

 どうしても、彼女のことが心配になる。どうしても、彼女を大切に想って仕方がない。


 今ならわかってしまうのだ。父親が、世界を「ついで」に救って母親を守った理由が。

 ネロが、リースを守るために王になった理由が。


 本能的に、運命的にこれは最初から決まっていたことなのだと、わかってしまったのだ。

 魅烙みらくには申し訳ないが、彼女に対してはそんな気持ちを抱かない。

 彼女は勿論将来を誓い合ったし、何か有れば守ろうと思う。自分の命をなげうっても、彼女を救い出そうと思うだろう。


 しかし、澪雫か魅烙かと問われれば、俺は長く迷った結果に「澪雫」と応えるだろうと。


 それが何故なのか、明確な理由は何一つわからないし、そんな俺の心を誰も説明してはくれない。

 もしこの世界に運命があるのなら、やっぱりこういうことなのだと、感じてしまう。


「まって、くだ」


 彼女の寝言か、そんな言葉が聞こえて俺は手を止めた。

 澪雫を注意深く見つめ、何処とも変わらない彼女の、銀色の髪の毛をそっと弄くってみる。


「まってくだ、さい。…………ネクサス……、さん」


 いじる手も止めてしまった。彼女の言葉が、耳に突き刺さり、心に突き刺さってしまう。

 彼女は、俺に追いつきたいとか言っていたっけ。

 何故俺に追いつこうとしているのだろう。その感覚こそ、俺にはない。


 俺は澪雫の上に行きたいわけでも、対等な関係にしたいわけでも、また別の何かになりたいわけでもない。

 一緒に、いたい。それが俺が下だろうが、彼女が下だろうが、同じだろうが、どれでもいい。


 彼女は、ずっと自分の価値を悲観視しすぎなのだ。

 剣術の面だけで言えば、俺達よりも遥かに強いのに。

 こうそうにも引けをとらないどころか、絶対にそれよりも上だということは分かっているし、あの二人だってちゃんと認めた。


 なのに、澪雫一人だけが、それを認めない。


「すてないで」


 捨てるわけなんてないのになぁ。どうやったらこう思うのか。俺にはどうしようも思えないけれど。

 俺が今までそんなことをするって本気で思っているんだろうか?


「……んぅ。……あ、あれ?」


 と、ここで澪雫が目覚める。こちらを見て、困惑したように不安げな顔をした。


「起こしてしまいました? ネクサスくん」

「いや、まだ寝てないだけ」


 もう、早く寝ないと明日に支障をきたしますよ、と涼風の美少女は微笑んで、俺の腰に手を伸ばしてくる。

 手を回し終えたと思えば、こちらに甘えるがごとく顔を寄せてくるではないか。


「どうした?」

「……ここにいても、いいですか?」


 俺は、拒否した覚えはないと答えた。それに彼女は「貴方らしい」返事です、と。

 先ほどの寝言は、本当に寝言だったのだろうかと考える。

 もしかしたら、俺の注意をひくためにわざとそんな感じに言ったのかなと、考えてしまう。


 でも、やっぱり。この顔を見ていたら、信じるのが一番いいかもな、って。


「ずっとここに居てくれ」


 彼女は、その意味を理解できただろうか。どこか不安気で、また幽玄さを保ち、同時に儚さすら併せ持つ少女は、俺の顔を見て少しだけ笑ってみせた。

 その顔が美しいのは分かる。幼さも未だ、残っていることは分かっている。


 どうしようもなく、美しい。魅力的だ。

 その顔に対して、適確な比喩表現が不可能。


「居てくれるだけで、俺は幸せだよ」

「その意味は理解しかねますが」


 っとと。やっぱり理解はされないようだな。


「ですが、分かりました。ずっと貴方のそばに居ましょう、ネクサスくん」



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