第191話 「冷とネクストの物語」
あるところに、「剣聖」と呼ばれている少女が居た。
名前は「涼野冷」。
少女は絶世の美少女で、容姿だけを見れば好きにならない男は居ない。
しかし、少女は孤独だった。自分の持っていた剣の才能と、習った剣の力。2つが見事にマッチしすぎて誰も寄せ付けない。
その結果、少女は「学園」に入学する前の中学生時代、能力を持たない一般人と混じっていながら「化物」と呼ばれ続け、不登校になっていた。
不登校でやることは何もない。ただただ、剣の腕を磨き続けることで16の時点で「剣聖」の称号を世界的に手に入れる。
しかし、やはり孤独であった。賞賛する人は山ほどいても、彼女と関わりを持とうという人は少なかった。
いつ何時も剣を肌身離さず持っている彼女は、いつしか「触れれば斬られる」と根も葉もない噂を立てられる。
そこにつけ込む少年が居た。彼女はどれだけ雑な扱いを受けようとも、自分に「触れてくれる」彼を信じ続けた。
しかし、それは「学園」に入学するまでであった。
能力者のみの「学園」に、少女は能力の才能がほぼないまま、入学する。
自分よりも強い人がいくらでもいた。能力の不得手を剣で補った少女は、そして補いきれない実力差を持った少年と出会う。
それが、ネクスト・アルカディアであった。
少年は、能力の実力に特化された人間。
能力に限って言えば、誰に負けることもない。教師には勿論、世界の実力者に大して対等以上の勝負を繰り広げ、最終的には対戦相手を叩き潰してしまう。
彼には脚力ももっていた。誰にも負けない速度を持っていた。
それらを極め、導き出した「答え」を証明するかのように戦う少年に、少女は惹かれる。
何より、彼は冷を否定しなかったから。
冷は中途半端な存在だった。能力者視点で見れば、彼女は完全に不完全なものだった。
能力が使えない。それこそ全くと言っていいほど使えず、AからZの格付けでいくとするなら容赦なく最低ランクだろう。
だが、一般人……能力を使えない人間たちからすれば、その身体能力、反射速度、直感など全てが人間レベルではなかった。
性格がいくら良かったとしても、それは変わらない「認識」の壁である。
蔑まれ、または「化物」と恐れられ。
それが自分の歩む人生だと感じていた少女に、ネクスト・アルカディアという存在は全てを否定してみせた。
そして、彼女の全てを肯定したのだ。
「隣を歩け」
と、彼女を色眼鏡で見る人間を自分自身の実力で退け、冷を認めさせる。
それが彼にできる最大限のことであり、彼は実行し続けた。
「世界を敵に回しても、君を守る」
この言葉を言える男性は多い。
しかし、それを実行できる男性は少ない。
ネクストは、それを実行できる人間であり、同時にそれを18の時に実行してみせる人間だった。
「で、この話がちょっと漠然としすぎてよくわからないんだが」
俺は、寝室でつぶやいていた。
先ほど、ネロが俺に話をシてくれた涼野冷とネクスト・アルカディアの物語だが、なんていうか。
ダイジェストか何かだろうか、と判断してしまうくらいには色々わからない。
でも、母親の過去はよくわかった。
なんだか、ちょっとひどい話だなと思う。
『ホンの20年前くらいまでは、そういう世界だったぞここ』
「ほんとに?」
今の制度はほぼ「全て」、親父とそれに先導された各国の有力者ときいて俺は正直驚いた。
うーん。やっぱり、よくわからなすぎて怖い。




